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徒然なるままに【文豪ストレイドッグス】

第6章 傀儡師


 フード男がキラリとナイフを光らせた。ギリギリの所で体をくねらせて回避するが、直ぐに横から蹴りが飛ぶ。脚の持ち主は太宰さんだった。

「御免、今は私の意思で動かせない」
「知って、ます!」

 茨姫で茨を出し、鞭のように2人の足元へ打ち付ける。だが其れも威嚇にしかならず、本気で殺すつもりで迫ってくる二人には太刀打ち出来なかった。
 赤い靴とがちょう番の娘は人殺しの技だから使いたくはない。眠り姫で眠らせた所で、操られているのだから意味は無いだろう。眠ったまま操られ続ける可能性だってある。
 距離を縮めようとする二人の顔面に水の玉をぶち当てた。パァン、と水風船が割れるような音が鳴る。水を操るのは『人魚姫』の技だった。
 だが、技を出すわたしの一瞬の隙を突いて、フード男がナイフで左肩を軽く抉った。プシュ、と小さく血が吹き出す。太宰さんの拳が右頬を掠め、じんわりと熱を持った。

「何だ、お前は殺さないのか?」

 太宰治も此奴も、お前を殺す勢いで来ていると云うのに。仮面男は心底つまらなさそうに言った。

「ご期待に添えなくて申し訳ないわね。でも、わたしは殺人はしない主義なの」
「ホォ……。マフィアや組合が闊歩するこの時代に良くそんな綺麗事を宣えるな」
「だからこそ其れが映えるのでしょう? 血に濡れた人間が道端の花を眩しく思うように」

 云いながらわたしは二人の攻撃を躱して行く。元々体力がそう有る訳では無いわたしはもう息切れをし始めていた。その一瞬の遅れを見逃さず、フード男が刃を向けた。

「泉!」

 太宰さんが叫び、わたしに駆け寄る。待って、貴方操られてたんじゃないの。驚きと混乱が入り交じっているその間にもナイフはわたしに振り下ろされようとしていた。

 その時。

 わたしの体はふわりと浮き、代わりに虎の爪がフード男の刃を受け止めた。

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