第1章 出逢い
「う……」
「あ、目が覚めました?」
暫くすると美形は目を覚ました。何時もとは全然違う、険しい表情で目玉を動かしている。
「大丈夫。此処はわたしの家です、貴方が川で流されてた所を助けただけですよ」
「……ぁ、嗚呼……。君か……」
「さっきからそう云ってるじゃ無いですか」
ふぅっと息を吐き、わたしは彼の額を温い手拭いで軽く拭いた。美形はごろりと体を横にし、何時もの食えない笑みを浮かべた。
「お嬢さんが助けてくれたのかい?」
「見つけて引き上げたのはわたしですけど、此処まで運んでくれたのは敦くんですよ」
何か社に報告して来るって帰りましたけどね。そう云ってわたしは敦くんが出て行った玄関を見遣った。
太宰さんはほっとしたように表情を緩めた。
「また失敗したか……」
「……あのですね」
美形の彼の言葉に、わたしは思わず口調がきつくなった。枕元に座り直し、びっと彼に向けて指を差す。
「貴方が死のうが死ぬまいが別に善いんですけど。死ぬならわたしが居ない所でやってくれません? 職業柄、死にかけの人とか見ると放っておけないんです」
ま、職業の所為だけじゃ無いですけどね。そう云うと、美形さんはぽかんと目を丸くさせた。そして直ぐにプッと吹き出した。
「いやぁ、面白い人だね君」
「は?」
「優しいお嬢さんだ」
「……何ですか急に。一寸気持ち悪いです」
「酷いなぁ。……ねぇ泉さん」
あれ、名前。教えた筈は無いのだけれど。
「君さえ善ければ、なのだけど。私と付き合う気は無いかい?」