第6章 傀儡師
「お前が儂らの仲間に成れば良いんだ」
仮面男はそう云った。「厭よ」わたしは即座にそう答えた。
「わたしの恋人を連れ去って暴力して、しかも人質にして? そんな奴らの仲間になれって云うの? 頭沸いてるんじゃないの」
「云うな、お前も」
「口だけは達者なもので。……そもそも、如何してわたしを仲間に? わたしは異能なんて持ってないわよ」
しれっと嘘を吐く。ライブラリの異能を狙う奴だったら無駄かもしれないけれど、自分から云う必要も無い。
「異能無し、ねェ。よくそんな事を云えたものだな」
「あら、莫迦にしてるの? 喧嘩なら買うわよ」
「莫迦にしてるのは其方だろう。──儂らの目的はライブラリの異能、即ち『始まりの女王』さ」
後ろに控えていたフードがぴくり、と反応した。太宰さんは異能の事を知っているからか、鋭い視線を仮面男に向けている。
「何処でそんな情報を仕入れたのかしら」
「母親からの異能譲渡の瞬間を見ていたのさ。あの女の異能は知っていたからな」
「へぇ。……で、『始まりの女王』を使って如何するつもりなの?」
仮面男は徐ろに一冊の本を取り出した。臙脂色の表紙に金の文字で『marionette』と綴られている。
「其れは?」
「儂の異能『操り人形』さ」
仮面男の異能は『操り人形』。其の名の通り、人形を何体でも自身の思い通りに操る事が出来ると云う。数に限りはあるが、人間を操る事も可能だとか。
「……成程」
太宰さんがボソリとそう云った。ちらりとわたしの方を見る彼に分かるよう、こくりと大きく頷いてみせた。
「……わたしの異能で人を人形にして貴方が其れを操る。そうする事で、人形は貴方に忠実な兵士となり、人を恐怖で支配する事が出来る。貴方の目的は世界を支配する事な訳ね」
中也さんがわたしに尋ねたのはこの事だったのか。わたしが仮面男に味方すれば無敵だから、其れを危惧していたのだろう。
「その通り。世界の前にまずはこの横浜から、じっくりと勢力を拡げようじゃないか」
厭だと言うなら──仮面男は後ろのフードの男に「やれ」と小さく命じた。仮面男が本を開き、フードの男が太宰さんの縄を解く。
「生憎と儂が操れる人間は一人だけでな。儂の部下とお前の恋人と、二対一なんて如何だ?」
仮面男は鬼魅悪く笑った。瞬間、太宰さんとフード男がわたしに刃を向けた。