第6章 傀儡師
孤児院裏の倉庫前に立ち、わたしは大きく息を吸い込み、吐いた。ギィ、と錆びた音を立てて扉が開く。真っ暗闇だった倉庫の中が少しずつ明るみに出た。中に居たのは仮面を付けた男とフード付きの外套を着た誰か。そして後ろ手に縛られて座り込んでいるらしい太宰さんだった。
「随分早かったな」
仮面男がそう切り出した。わたしはそれには答えなかった。
「定刻通りでしょ。時計も読めないのね」
「おや、随分落ち着いているじゃないか。恋人が心配じゃないのか?」
「あの人は貴方に捕まった位で死ぬようなヘタレじゃないわ」
「ふ……。信用されているのだな」
「太宰さん返して」
「そう焦るな。お前が儂らの出す条件を飲んでくれたら解放してやるさ」
ぴくり、と太宰さんが身じろぎした。勢いよく顔を上げ、驚いたようにわたしを見た。
「泉さん!? 如何して此処に居るんだい!?」
「太宰さんにあんな事やこんな事するって聞いたので見に来たんです」
「中々酷くない? 助けに来たとかじゃないの?」
「冗談ですよ。……太宰さん、殴られました? 口の端っこ切れてる」
「え? 嗚呼……まぁ少しね」
「判りました」
この男を殴る理由が一つ出来た。太宰さんを傷付けたのだから、わたしが仕返しとして何倍も痛め付けるくらい無問題だろう。
「じゃ、そう云う訳だし。太宰さん返して、後百発くらい殴らせて」
「条件があると云っただろう、莫迦かお前は」
「何よ、早くしてくれる? わたし貴方を殴りたくて仕方ないの」
「泉さんなかなかバイオレンスな事云ってるの自覚してる……?」
太宰さんが一寸身を引きながらそう言った。でも仕方ないのだ、そうでもしないとわたしの気が済まない。
仮面男はフッと笑みを深くした。嗚呼、気持ち悪い。
「簡単さ、お前が儂らの仲間に成れば良いんだ」