第5章 日々は緩く過ぎ去りて
目が覚めると、わたしは自室のベッドに横になっていた。視線だけを動かすと、其処には椅子に座って眠っている太宰さんの姿があった。
何で太宰さんが? 確かわたしは、夜帰っている時にストーカーが出て、其れで……。
昨日の記憶がぶあっと思い出された。わたしはぎゅっと布団を抱き込み、目を瞑った。もうあんな思いは厭。あのまま中也さんが来なかったら、わたしは如何なっていたか。想像するのも恐ろしかった。
「泉さん、目が覚めた?」
布団越しに太宰さんが優しく声を掛けた。わたしが震えているのが判ったのか、太宰さんはぽんぽんとわたしの背中を軽く叩いた。
「助けられなくて御免ね。そんな事になってるなんて知らなかったのだよ。……昨日の夜に中也と会ってね。君が襲われかけていたと聞いた」
怖かっただろう、気づいてやれなくて済まなかった。太宰さんは申し訳なさそうにそう云った。
「でも何故相談しなかったんだい?」
太宰さんは布団を捲ろうとはせず、あくまでも距離を置いて話を進めた。
彼の其の質問に、わたしはゆっくりと答えた。
「……太宰さん達に相談するべきじゃないと思ったから、です」
「如何してだい?」
「他の案件で忙しいのに、わたしの事に時間を割いてもらう訳にはいかないと思って……」
「そうか……」
でも私も気付いてやれなかった。君も相談しなかった。お相子だ。太宰さんはにこやかにそう言った。でもわたしには判る、此の口調は怒っている時だ。
「でも何故中也には云ったんだい?」
また質問をされた。今度は判りやすく怒りが混じっている。
わたしはびくびくしながら答えた。
「……絡まれてる所を助けてくれたのが中也さんだったから、です」
「私には云わなかったのに?」
怒っている。わたしはまたビクビクしながら答えた。
「……迷惑に、なるじゃないですか。中也さんには見られてたし、話さなきゃって思って」
「……あのね泉。恋人なのだから、もっと頼って善いのだよ。心配事があるなら私に相談してくれれば善いんだ。違うかい?」
「迷惑じゃ、ないですか」
「恋人の頼みを迷惑とは思わないよ。正当な理由なら尚更さ」
今日はゆっくり休もう。君は他人に甘える事を覚えた方が善い。太宰さんがそう云うのを聞き乍ら、わたしは微睡みの中に落ちた。