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徒然なるままに【文豪ストレイドッグス】

第5章 日々は緩く過ぎ去りて


 次の日。例の男は十三時頃に来館した。わたしはカウンターで貸出業務の真っ最中の為、男に話しかけられる事はまず無い。
 貸出が粗方終わると、見計らったように男が此方に来た。

「如月さん」
「あら、今日は。今日は如何なさいましたか?」
「本を見て欲しいんだ」
「昨日貸し出した本は未返却ですよね? 其の状態ですと、新しい本は貸し出しできませんが……」

 態とそう言ってみる。男は忘れていたのかハッとして、直ぐに表情を取り繕った。

「此処で読んで行きたいんだ。君のお薦めの本を教えてくれよ」
「わたしの好みとお客様の好みは違いますから……お好みの本を探すのが一番善いと思いますよ?」

 此処まであからさまに拒否していると云うのに、何故判らないのだろう。男はわたしがレファレンスをしないのに苛立ったのか、ぐいっとわたしの手首を捻りあげた。

「痛っ!」
「俺は君の事を知りたいんだ! 善いから早く教えろ!」
「もしもしお客様〜ァ?」

 妙に甲高い声と共にぽん、と男の肩に手が乗せられる。男の後ろには中也さんが立っていた。

「女性の腕を捻りあげるのは尊敬しねェな」
「な、お前は」
「通りすがりの悪者さ。俺ァ女に手ェ出す奴は嫌いでな」

 ぎり、と肩を掴む手が強くなった。骨が砕けるんじゃないか、とわたしが思った其の一瞬、男に掴まれていたわたしの手首が解放された。其れを見た中也さんも掴んでいた手を勢いよく離した。

「人の顔色を窺えるようになってから出直せタコ」

 中也さんは軽く背中に蹴りを入れて男を強制退館させた。くるりと振り向き、わたしの手首をそっと持ち上げた。
 手首にはあの男の手形がくっきりハッキリ付いていた。鬱血して少し赤くなっている。

「跡ついてやがるな……。どんだけ力任せにやったンだ」
「結構痛かったですよ」
「ったく……敵でもねェ女を傷付けるなってンだ」
「中也さんからそんな科白出ると思わなかったです」
「俺ァ裏じゃ紳士的だって有名なんだぜ。知らねェのか?」
「わたしそっちの人間じゃ無いですもん」

 その後、男が来館することは少なくなった。偶に来館しても、中也さんが怖いのか、わたしに声を掛けることは無くなった。

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