第5章 日々は緩く過ぎ去りて
「ストーカー?」
仕事終わりまで待っててくれた中也さんにお礼を云い、わたし達はとあるバーでお酒を飲み交わした。
お酒が入ると、普段云えない本音もついポロリと零れるものだ。わたしはカウンターに突っ伏した。
「あの利用者さん、見ましたよね……?」
「嗚呼、手前が対応してた奴か」
「そう……。あの人、わたしが対応する度に誘ってくるんですよ」
今日は山登りだったけれど、この前は料理の本を探すと云って母親の誕生会に誘われたし。何で司書のわたしが利用者の母親と会わなきゃならない。しかも誕生会だなんて。
「太宰の莫迦には云ってあンのか?」
「云う訳ないじゃないですか……。云ったら心配して『家まで送る!』とか云い出しかねないですし」
「あの青鯖なら云いそうだな」
言いつつ中也さんはショットグラスに入った蒸留酒を飲み干した。お酒に強いと云っていたけれど、そんなに呑んだらまずいんじゃなかろうか。
「でも司書わたししか居ないし……。他の利用者さんの手前、あの人だけ断るのも無理だし……」
「人手不足の悩みだな」
「太宰さん達に頼むような案件でもないしなぁ……。うぅ、如何しよう……」
ぐだぐだしながら蒸留酒をちびり。苦い其れは大人の味、という奴なのだろう。わたしには判らないが。
「なら俺が恋人役にでもなってやろうか?」
「恋人役は善いですよ……。本物いますし」
「でも手前付きまとわれてンだろ? 俺なら何かあれば直ぐ追っ払えるぜ」
「う、其れは魅力的」
ぐっと詰まる。だが恋人役というのは太宰さんに失礼すぎる。わたしは考えた末に一つの案を出した。
「じゃあ、図書館での仕事終わりに迎えに来て下さいよ」
「迎え? そんなモンで良いのか?」
「ええ。先ずはわたしが居る時に図書館に来て貰って、わたしと仲が良いという所を見せつけるんです」
そうすれば、あの男は中也さんがわたしにとっての何なのかを探ろうとする筈。探り当てた後は営業時間外に何かわたしに対して起こすだろう。それを狙って中也さんが撃退するのだ。
「ね、いい案でしょ」
「……明日は何時終わりだ」
「十六時です」
「判った、終わる前に迎え来る」
中也さんはそう云って、カウンターに二人分のお金を置いて先に立った。
「帰んぞ」
「……中也さんって優しいですよね」
「あ?」
「何でもないでーす」