第4章 探偵社女子、マフィア男子
「……で、今度こそ本題に入りたいんですけど」
「俺も其の心算だったンだがな」
「マフィアには行きませんよ」
にっこり。効果音が付くくらいの満面の笑みをわたしは浮かべてみせた。俗に言う営業スマイルって奴だ。
ひくり、と中也さんが顔を引き攣らせる。ヤバいこの顔面白すぎ。
わたしは紅茶を一口啜った。カチャリ、とカップとソーサーが触れ合う音がやけに響いた。
「マフィアに行くって事は人殺しの任務だって有るでしょう? いえ、むしろ殺人しか出来ないかもしれない」
ライブラリの異能は戦闘向きすぎる。がちょう番の娘なんて拷問にしかならないし、赤い靴も人魚姫も殺人に使えるような技だ。
「人殺しはもう嫌なの」
院長を刺した感触は今でも偶に夢に見る。生温い赤い液体が沢山出て、怖くなって震えて逃げ出す。もうあんな怖い思いは御免だ。
「……断ったら如何なるか判って云ってンのか?」
「殺されるなら本望ですよ。こんなの遺す価値無いわ」
中也さんは大きく溜息を吐いた。
「……判った」
やがてわたしの意思が硬いのが伝わったのか、中也さんの方が折れた。
「時に泉、手前は太宰に云ってあるのか?」
「云ってませんよ?」
「待って私だけ話に入っていけてないのだけど」
「手前も恋人なら云ってやれよ」
「だって余り人に話してもって思って」
「待ってどう云う事? 泉さん説明して?」
わたしは渋々太宰さんに異能の話をした。
母親から譲渡されたと云う事。ライブラリは強大な力である為、色々な組織や組合に狙われ易い事。そして今は其れを使いこなそうとしている最中であるという事。
「私聞いて無いのだけど」
「云ってないですもの。無闇矢鱈に人に話して漏れたら困るでしょう?」
まぁ云ってなくても見てた所為でこうして敵が来てる訳だけど。
「そう云う訳ですし、この事は内緒ですよ。後、太宰さんに関しては許してませんからね、わたし」
ぷいとそっぽを向いてわたしは芥川くんの看病をしに寝室へ向かった。
「嫌われた……?」
「妥当だな」