第4章 探偵社女子、マフィア男子
部屋に入ると、芥川くんは薄らと目を開けていた。
「お、目覚めた?」
そう問うと「中原さんは……」と直ぐに上司の安否を尋ねて来た。上司好きすぎか。
「中也さんなら隣の部屋。太宰さんも居る」
「……! 太宰さん……!?」
「あ、動くのはまだ駄目よ。熱下がってないし、今晩は此処で寝てたら?」
「だが、僕には未だ仕事が」
「泉の云う事は聞いといた方がいいぞ、芥川」
スラリと襖が開き、其処から中也さんがひょいっと顔を出した。芥川くんは上司がそんな事を云ったのが驚きだったのか、目を丸くさせている。
「ゆっくり寝て治ったら仕事だ、復帰の暁にはたっぷり仕事させてやるよ」
励ましの言葉が凄い個性的すぎる。わたしは思わずくすくす笑ってしまった。「嗚呼、そうだ泉」中也さんが腰を上げながらわたしに声を掛けた。
「何です?」
「手前は『操り人形』って知ってるか?」
「……糸を使って人形を操る劇のことですか?」
「否、其方じゃ……まァ知らねェなら良いンだ、邪魔したな」
今度は酒でも呑もうや。そう云って彼はわたしの部屋を出て行った。「昼頃迎え来る」と芥川くんに云い置いて。
「じゃ、わたしも仕事休まなきゃね。病人放って行けないし」
「平気だ」
「駄目」
──次の日、すっかり元気になった芥川くんはわたしが出した茶漬けと卵焼きをぺろりと平らげ、前よりも顔色が良くなっていた。大分元気になった彼は、迎えに来た中也さんと共にわたしの家を後にした。