第4章 探偵社女子、マフィア男子
「じゃ、取り敢えず少年は外套を脱いでここに寝て。只の風邪だろうから、今何か作ってあげる」
家に着き、わたしは直ぐに看病の準備を始めた。布団を敷き、其処に少年を寝かせ、粥を作りに台所へ向かう。薬を飲ませる前に何かを胃に入れなければならない。軽い食事をもう一人の分も作り、部屋に持っていった。
「はい、少年はこっちね。お兄さんはこっち」
少年に小さな器に移した粥を手渡し、帽子の彼にはおにぎりとお茶を渡す。
「少年はお粥食べたらこの薬飲んで寝て。保護者さんは後でお話しましょうね」
だが少年は口を付けようとしない。わたしは溜息を吐いて器と匙を引ったくった。
「何を、」
「さっさと食って薬飲んで寝る。そうしないと治らないでしょ。別にわたしは具合悪くても迷惑しないけど、貴方の上司には迷惑をかけるわ。厭ならさっさと治すのね」
はい、口開けて。其処まで云えば少年は素直に口を大きく開けた。ふぅっと粥を軽く冷まし、口の中へ放り込む。「最低でもこの器の中身は食べなさい」そう云うと少年はこくりと頷いた。素直で宜しい。
***
粥を総て食べた後は薬だ。少年は熱で朦朧としているのか、先程よりもあっさりと薬を飲んだ。今は少し寝苦しそうにしているが、もう大丈夫だろう。
「あの、お兄さん?」
「ハイ」
「あんな高熱出るまで気付かなかったんですか? マフィアは体調不良でも仕事するってルールでも有るんですか?」
「否……すいません」
「ま、今は薬も効いてきて大分善くなりましたけど。……で、マフィアへの勧誘でしたっけ?」
わたしが本題を切り出すと、彼の目が一瞬で据わった。
「先ず其方のお名前を聞きたいです。わたしだけ情報だだ漏れなのは許し難いので」
「俺は中原中也、ポートマフィアの五大幹部の一人だ。手前が看病したのは芥川龍之介。俺の部下だ」
「……呼びにくいので中也さんで善いですか?」
「好きにしろ」
「じゃあ遠慮無く。……マフィア勧誘の件なんですけど」
話をし始めようとした時、玄関の扉がトントントンと叩かれた。
「……こんな時間に来る人なんて居ないはずなんだけど」
「不審者か?」
「一寸見て来ます。心当たりが無い訳じゃ無いので」
そっと扉を開けると、隙間からぬっと誰かの顔が出て来た。
「きゃああ!?」
「オイ如何した! 矢っ張り不審者か!?」