第4章 探偵社女子、マフィア男子
わたしは夜間に出歩くと怪しい人物に会う呪いでもかかっているのだろうか。
「手前が如月泉だな」
黒い帽子に黒いコートを肩に羽織った小柄な男性がわたしを見てそう云った。
わぁーい個人情報だだ漏れだぁー☆ ……なんて現実逃避している暇は勿論有る訳が無く。思わず後ろに後ずさると、トンっと誰かにぶつかった。振り向くと黒い外套。
「貴方……」
確か芥川と云ったか。彼はわたしの肩をぐっと力強く掴んだ。痛い、力が強すぎて痛い。
「単刀直入に聞く。手前、異能『ライブラリ』の所有者だな?」
わぁバレてら。でも妙だ、知っている人はわたしと自称神様の二人しか居ない筈なのだけど。太宰さんにすら話していないと云うのに。
「何で知ってるんだって顔だな」
ニヤリと帽子の人が妖しく笑った。どうやら彼らは自称神様が封印を解いた所を見ていたらしい。
「……貴方は誰?」
「俺達はポートマフィアだ。マフィアとしてはライブラリの異能持ちの奴は是非とも囲っておきてェのさ」
要するにライブラリは強いからマフィアで保護して戦力にしたいらしい。其れにしても、わたしの後ろにいる彼、妙に──
「断ったらその場で芥川が喰うぞ」
「あの、其の芥川さんなんですけど。身体凄く熱くないですか?」
「はァ?」
そう、わたしの後ろに立つ彼は服越しでも判る程身体が熱かった。くるりと後ろを振り向き、わたしは背伸びをして背の高い彼の額にぴたりと手を当てた。
「……三十八度って所かしらね」
「僕に触るな……」
「危ないから其れ仕舞ってくれる? 具合悪い時に暴れたら余計悪くなるでしょ」
羅生門を出しかけた彼を一喝して止める。彼は意外にも素直に其れを納めた。「あの芥川が云う事聞いてやがる……」帽子の人が驚いた様に呟いたのが聞こえた。
「そこの小さい帽子さん」
「チビ云うな」
「わたしの家まで彼を運んでくれます? 歩いて五分の所に在るので」
にっこり笑ってそう頼むと、帽子の人は「はァ?」と怪訝そうな声を上げた。
「手前、一体何を」
「看病ですけど? こんな熱出てるのに夜道で長い事話してたら治るものも治らないし。ほら、さっさと運んで」
有無を云わせず少年を帽子の人に預ける。「此方です」わたしは先に歩いて鍵を開けた。