第4章 探偵社女子、マフィア男子
【泉side】
「……何か外騒がしくない?」
応接室の外で何やら話し声が聞こえる。はぁ、と大きな溜息を吐いて腰を上げたのは与謝野さんだった。
「太宰、国木田」
スパン! と扉を開け放つなり与謝野さんはそう呼んだ。……え、待って、太宰さん? て事は、さっきの話、聞かれてた?
「与謝野さんじゃあないか〜。こんな所で何してるんです?」
「其れは此方の科白さねェ。何で仕事している筈の太宰がここに居るんだい?」
「偶々通りがかったんですよ。ねェ国木田くん?」
「俺を巻き込むな唐変木」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ彼らを余所に、わたしは紅茶を一気に飲み干した。
「……取り敢えず、わたし帰るね。もう夜になるし」
「あら、なら誰かに送って貰った方が……」
「お気遣いなく。此れ位の時間なら一人でも平気よ。今日は有り難うね、鏡花ちゃん、ナオミさん」
そう云うと、鏡花ちゃんはバイバイと手を振ってくれたが、ナオミさんは一寸不服そうな顔をした。
「ナオミさん……?」
「私、泉さんより歳下ですのよ?」
「……うん? 確かにそうだね?」
「なのにさん付けされてたら、何方が歳上か分かりませんわ」
「そっか、それもそうだね。又ね、ナオミちゃん」
そう呼んでやると、ナオミさん──否、ナオミちゃんはパッと顔を明るくさせた。
「ええ、またいらしてくださいね!」
「うん、じゃあね〜」
応接室の入口付近で与謝野さんと国木田さんに挨拶をして帰ろうとしたが、歩き出す前に軽く手首を掴まれた。振り返らなくても判る、太宰さんだ。
「送って行くよ、泉さん」
「遠慮します」
「夜道は危ないって此の前身をもって痛感しただろう?」
「ええ、しました。でも太宰さんに送って貰わなくて結構です」
流石にあんな恥ずかしい事を聞かれた直後に其の本人と家まで歩くなんて冗談じゃない。わたしの心が持たない。
「じゃ、お仕事頑張って下さいね」
わたしはふいっと彼から顔を背け、探偵社の扉を開けて外に出た。