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徒然なるままに【文豪ストレイドッグス】

第4章 探偵社女子、マフィア男子


「そう云えば、泉ちゃんは随分髪が長いんだねェ」

 与謝野さんが一寸前にかがんでわたしの髪を掬いとった。何時も三つ編みして横に下ろしているけれど、今日は何となく下ろして来たから、長く見えるのだろう。

「ええ、もう八年近く切ってないかも」
「八年!?」
「其れでもこの長さなんですか!?」
「お姉さん……凄い」

 三者三様の驚き方だ。わたしは思わずくすくす笑った。

「ずっと伸ばしっ放しだと傷みますし、偶に毛先は切り揃えてましたよ」
「髪が伸びるのが遅いのかねェ? 興味深いモンだ……」
「何でそんなに切ってないの?」

 鏡花ちゃんが尋ねた。わたしはふむ、と少し考え込む。

「端的に言ったら願掛けかなぁ」
「願掛け?」
「お願い事が叶うまで何かを我慢したりする事よ」

 鏡花ちゃんで例えたら、お願いが叶うまで甘い物を食べないようにする! とかそんな感じかな。そう教えてやると、鏡花ちゃんは一寸顔を青くさせた。

「もうクレープ食べられないの……?」
「否、例えだからね? 鏡花ちゃんが願掛けするとしたらそうなるかもねってだけよ?」
「私、もう願掛けしない」

 その可愛らしい反応に皆がふわりと笑う。「泉さんのお願いは何ですの?」ナオミさんが紅茶を手に取りながら問うた。

「わたし? わたしはね……お兄ちゃんに会う事」

 ──わたしの願いはもう一度生き別れの兄に会うこと。孤児院に居た時、先に里親に引き取られて行った兄とはもう連絡が取れないのだ。

「お兄ちゃんと会えたら話したい事沢山あるの。お仕事掛け持ちしてるし、太宰さんて恋人も出来たし、探偵社の人達とお友達になれたし」

 だから願掛けをしてるの、お兄ちゃんに会えたら子供の頃みたいに短くするんだ。大人になったんだよって、お兄ちゃんに見せてあげたいから。

「何かこう聞いてると、年相応と云うか可愛く見えるねェ」
「えっ?」
「泉さん二十歳でしたわよね?」
「え、うん」
「まるで私より歳下みたいに感じましたわ」
「えっどう云う事ですかナオミさん」
「判る。何だか凄く歳が近く感じる……」
「鏡花ちゃん迄!? ……もう!」

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