第1章 出逢い
もう二度とあの自殺狂の美形とは会わないだろうと思っていた。だが偶然とは恐ろしい物で、わたしは其れから何度も美形の自殺現場に遭遇した。そしてその度に少年と鉢合わせ、協力して彼を助けるのだ。
「何時も大変ね、君も」
「泉さんもでしょう、それは」
そんな会話をしたのが確か一昨日の話。そして今日、また出くわした。今度は休日の買い物帰りの事だった。
其の美形は川でどんぶらこどんぶらこと桃太郎よろしく流れていたのだ。
新米とはいえ仕事は薬剤師、川で溺れている(流れている?)人を見て無視できるような根性はしていない。わたしは嫌な思い出のある河原に買い物袋を置き、裸足になって川の中に入った。
「っもう! 何でこの人は何時も何時も自殺を……!」
見た所水を飲んでしまっただけのようだが、季節はそろそろ冬になる頃。水温もかなり下がっている筈だ。濡れた服をいつまでも着せていれば低体温症を引き起こす原因にもなる。
取り敢えず回復体位に置き、コートを脱がせた。ぐっしょりと水を吸っているため、かなり重い。ぐっと力の限り水を絞り、再び美形に着せた。
「何も着てないよりはマシでしょっ、と……」
美形の腕を肩に回し、左手に買い物袋を持った。わたしの身長では支えるどころか引き摺る始末だが致し方ない。
「泉さん?」
後ろから声をかけられた。例の少年だ。確か中島敦くん、と云っただろうか。
「敦くん、久しぶり。と云っても一昨日会ったけどね」
「こんな所で何して……ってまたですか?」
「そ。何でわたしが毎回発見者なのかしらね」
「太宰さんを何処に運ぶんですか?」
少しだけ警戒の色を見せた敦くん。流石に怪しまれるかと苦笑しながらわたしはさくっと答えた。
「大丈夫よ、わたしの家だから」
そう云うと、敦くんはきょとんと目を丸くさせた。
「え、泉さんの家?」
「そう。びしょ濡れの服を着せる訳にも行かないから、取り敢えず家で着替えさせて体を温めさせようと思って」
折角だし、家まで運んでくれる? わたしじゃ身長足りなくて。そう云って笑うと敦くんは元気よくはい! と頷いた。