第3章 夜道にはお気をつけて
「『始まりの女王』って云うのはね、古い古いお伽噺さ」
……昔々、ずぅっと昔の事。ある国に美しい姫と姫を愛してやまない王様が居たと云う。王様は姫をずっと自分の元に置いておきたくて、お姫様をお人形にしてしまいました。
日に日に動かなくなっていく体を、お姫様は嘆くばかり。けれどある時、お姫様は自分をお人形にした魔法を閉じこめた匣を見つけました。これを開けたらきっと体が戻るはず。お姫様はそう信じて匣を開けました。
けれど、其れを開けた瞬間、魔法は世界中に飛んで行ってしまいました。お姫様の体は元に戻らず、世界中の人達が人形になってしまったのです。
『其れでも善いわ。私が元に戻れないのなら、皆人形に成ってしまえば善いのよ』
みんなみんな、私と同じお人形に成ってしまえ。そんな呪いの言葉は今もどこかの世界でずっと響き続けているのでした。
「……そんなお伽噺。ね、怖いだろう?」
「其れが能力とどう関係が?」
「厳しいなぁ。……此れは話の通り、お姫様の言葉を聞いた人は全員人形になる呪いだよ」
解除するには異能自体を使えなくさせるしか無いと云う事で。
「……言葉を聞いた人ってことは、発動者本人も人形になるんですか?」
「さぁねぇ。その話を使った人居ないし」
「居ないのに内容判るんですか?」
「お伽噺の中身的に『そうじゃないか』って推測が立てられてるだけだよ。そもそも、之は君の母上の異能だしね」
マフィア同士の抗争に巻き込まれて死んだ母の異能。つまり其れは唯一残った形見だという事。
「封印してたのは父上か兄上かな。そう云う能力があったんだろうね」
ライブラリの力は強大で、能力者が読んだ本が多ければ多い程使える技も増える。故に歴代の能力者は本に関わる仕事をしていたか、読書家が多いと言う。
沢山の本を読み、沢山の知識と技を身につけた者は強い。その場その場に合った本を選び、攻撃や防御、時には援護にもに繋げていく為、対異能でも対一般でもかなり強く、汎用性も高い。
だがその分、其の異能を狙う者も出て来る。だからこそ封印されていたのだろう。
「母上が君に譲渡したのはいざと云う時に身を守る為。封印されたのは持っているとバレて危険な目に遭わないようにする為、って所かな?」
「……わたし、愛されてたんですね」
「子を愛さない親なんて居ないよ。勿論、妹を憎む兄もね」