第3章 夜道にはお気をつけて
綺麗、と言われて泉は戸惑ったらしい。実の両親を恐怖から見殺しにして、酷い事をされたとは云え院長を手にかけた血塗れの自分を「綺麗」と形容されるなんて、と言う気持ちが表情に現れている。
「君は如何してその仕事を選んだんだい?」
「薬剤師、と、司書……?」
「そう。何か理由があるんじゃないのかい?」
何時の間にかボロボロに泣いている泉の背中を優しく摩る。彼女はゆっくりとしゃくり上げながら答えた。
「司書、は……小さな事だけど、相手の探してる本を見つけるっていう手助けが……した、くて」
「うん」
「薬、剤師……は、人の命を助けられる……し、苦しんでる人達を楽にさせたいって……思っ、て」
「そうか。其れは立派な理由だよ。君は綺麗だ」
涙でぐしゃぐしゃの顔で泉が私を見つめた。私は彼女の目尻に優しく口付ける。
「人を守りたい、助けたいって思って行動するのは勇気が要る事だ。其れを出来ると云うのは強い証拠さ」
例え手が血塗れだとしても、心が綺麗ならば大丈夫。
「だざ、さ」
「治で良い、と前から云ってるんだけどなぁ」
「う、うぅー!」
「よしよし、ゆっくりお休み。明日はこの家で休日を満喫しよう。二人で食事を作って、一寸散歩して、存分に恋人らしい事をしよう。ね?」
「う、」
小さく頷いた泉は私にしがみついて目を閉じた。暫くすると泣き疲れたらしい恋人はすぅ、すぅと小さな寝息を立てていた。時折しゃくり上げているが、大丈夫だろう。
「ゆっくりお休み、私の恋人さん」