第3章 夜道にはお気をつけて
ご飯とお風呂を済ませ、わたし達は一つの布団に潜り込んだ。太宰さん曰く、わたしは “子ども体温” だそうで、抱き枕にするととても善く眠れるのだとか。……人に向かって失礼だと思う。
彼は、寝しなに色んな話をしてくれる。だが、何時も探偵社の人達の話や自殺方法の話ばかりで、自分の事や過去については何一つ語って来なかった。勿論わたしも自分から聞く事はしなかった。聞いても答えてくれないだろうし、何より話したくないだろう事を無理に聞き出したくなかった。
「今日、君を襲った少年が居ただろう」
だから、今夜はきっとお互いの転換期なのだと思う。わたしはもぞりと身動ぎして、太宰さんと向かい合わせになるように身体を向けた。
「彼は私の元部下だ。……私は、昔ポートマフィアの幹部だった」
「じゃあ、太宰さんは探偵社の元敵……って事になりますね」
「まぁ、そうなるね」
「何か……抜けるような切っ掛けが有ったんですか?」
「私の古い友人が亡くなったんだ。其れで、マフィアを辞めて探偵社に入った」
太宰さんの表情には、何時もの飄々とした色は無かった。代わりに冷たく、悲しい色が宿っていた。
「友人は織田作と云ってね。とても優しい男だった」
彼のお陰で今の私が有る様なものだよ。太宰さんはそう云って優しく微笑んだ。
「……何でマフィアに入ったんです?」
「此処に居れば、生きる意味が見つかるかと思ってね。……まぁ、見つからなかったけど」
『お前は光の存在になれ。お前なら人を救う立場の人間になれる』
「織田作が云った言葉さ。その言葉のお陰で私は今此処に居られるんだ」
わたしは胸がきゅうっと締め付けられる思いだった。生きる意味を見つけたかった。人を救いたい。……嗚呼、如何して。
如何してこんなにも似ているのでしょう、わたし達。