第18章 徒然なるままに
「ほら、左手出して」
太宰さんは云いながらわたしの左手を取った。婚約指環を外され、代わりに違う指環を嵌められた。
「これは結婚指環だよ、泉」
私にも嵌めてくれるかい? 太宰さんはそう云ってわたしに指環を手渡した。わたしのより一回り大きい其れを太宰さんの左手、薬指にそっと嵌める。キラリとお互いの指で指環が光った。
「ん、似合うよ泉」
皆が固唾を飲んで見守る中、太宰さんはわたしの頬に手を添えた。緊張の余りぎゅっと目を固く瞑ると、太宰さんがクスリと笑うのが触れた息で判った。
ちゅ、と唇の感触がしたのはわたしの唇ではなく額。乱歩さんと与謝野さんがつまらなそうな声を上げた。
「何だい、つまんないねェ」
「しちゃえば良かったのに〜」
歳上組のつまらなそうな表情とは真逆に、歳下組はほっと息を吐いていた。流石に目の前で接吻は刺激が強いだろう。
また先程の賑わいが戻った頃、扉ががちゃりと開いた。
「よォ」
「……何故僕まで」
「中也さん、龍!」
何故か敵である筈のポートマフィアが探偵社を訪れていた。
「如何したんですか?」
「鏡花と泉の入社祝いしてるって国木田に聞いてな。駆け付けたんだ」
入社祝い。そう云って渡されたのはくまのぬいぐるみ。鏡花ちゃんにはうさぎのぬいぐるみだった。
「可愛い……」
「気に入ったなら何よりだ」
「凄く気に入りました、有難う御座います! ……でも態々くれなくても良かったのに」
「入社祝いに来たのに手ぶらはねェだろ」
「そう、ですかね……?」
首を傾げていると、太宰さんの腕がわたしの頭にのしかかった。
「太宰さん重い……」
「私の奥さんに気安く話しかけないでくれるかい? 中也」
「あ?奥さんって……」
云いつつ中也さんと龍がわたしの薬指を見る。「嗚呼、成程な」中也さんは何でもないように頷いた。
マフィアへの再勧誘を蹴った後に会うのが此れだと少し気まずい気もする。
「結婚したのか」
「ええ、まぁ……。あの、中也さん」
「云うな。……泉、結婚おめでとう」
「……有難う御座います」