第18章 徒然なるままに
「おい、貴様」
「お?」
龍がじろりとわたしを睨んだ。白鯨で助けてくれたとはいえ、敵同士。しかも太宰さんと結婚したとなればわたしへの恨みは倍増だろう。そう思っていたのだが。
「僕は未だ貴様を認めた訳では無い。だが、太宰さんがお選びになったのなら認めざるを得ない」
「うん? ……うん? つまり何が云いたいの?」
「良いか貴様、太宰さんを悲しませてみろ。今度こそ僕が貴様を八つ裂きにして横浜の海に捨ててやる」
ギッと龍はわたしを睨み付けた。彼の眼光の鋭さにはもう慣れたから、如何って事は無いのだけれど。
どうやら云いたかったのは其れらしい。太宰さん大好きっ子の龍らしい事だ。
「判った、肝に銘じておくね」
そう笑って云うと、龍は不服そうに目を逸らした。
「僕は太宰さんが選んだという貴様は認めるが、貴様自身は認めんからな」
「はいはい」
……でもわたしが云われるとは思わなかったなぁ。ぽつりと呟く。
何方かと云うと、普通はこう云う科白は太宰さんが云われる側なんじゃないだろうか。そう思っていると、中也さんがニヤリと笑った。あ、此れ悪い事考えた笑顔だ。
「じゃあ太宰には俺から云ってやろうか」
「へぇ、云ってみなよ」
太宰さんも受ける気満々だ。喧嘩にならなきゃ善いけど。わたしは見守りに徹した。
「泉を泣かせたら容赦しねェぞ」
「へぇ、如何するの」
「今度こそ手前から掻っ攫う。覚悟しとけ青鯖」
うわー、此処でそれ云うか、うわー。わたしは思わず顔を顰めた。真逆此処で云うとは思わなかった。しかも本人に。
わたしはすすすっと後ろに下がった。「愛されてるねェ」なんて与謝野さんにニヤニヤと云われるが、勘弁して欲しい。此処で泥沼は面倒すぎる、嫌だ。
と、太宰さんがわたしの肩をきゅっと抱き寄せた。