第18章 徒然なるままに
「何だい泉、指環なんてして」
「え? あ、嗚呼……」
「婚約指環かい?」
探偵社の中でも大人の部類に入る与謝野さんは流石に察しが良い。わたしは苦笑いで誤魔化した。
「太宰からかい。こりゃあ一寸面接だねェ」
「め、面接?」
「そりゃそうさ。妾らの大事な家族を嫁に取るンだ、ちゃんとした男じゃないと認めないよ」
「面接……する」
「太宰さんがどれだけ想ってるか聞き出しましょう」
とんとん拍子に話が進み、何故か与謝野さん達三人と太宰さんで面接が始まっていた。
「何してますの、あれは?」
「太宰さんがわたしに相応しいかの面接だそうで……」
「嗚呼、だから泉さん指環してるんですね」
「潤一郎くん気付いてたの?」
「バッチリと」
潤一郎くんもかなり察しが良いようだ。そう言えば乱歩さんも福沢社長も頻りにうんうんと頷いているように見える。
「与謝野さーん、僕らも面接やって善い?」
「社長と乱歩さんまで!?」
太宰さんの青い悲鳴が聞こえるような気がした。潤一郎くんとナオミちゃんと苦笑いしながらその光景を見ていると、賢治くんがトコトコと寄って来た。
「泉さん、おめでとうございます!」
「何が?」
「入社とご婚約ですよ。おめでたい話題です!」
「あは、そうだね。有難う賢治くん」
と、与謝野さんが肩を竦めながらわたしの方へ歩いて来た。
「ありゃ駄目だ。此処で誓いの接吻でもして貰わなきゃ誠意は見えないねェ」
「ち、誓いの接吻!? 此処で!?」
「おやァ? 泉、照れてンのかい?」
ニヤニヤと笑う与謝野さんに、わたしは思わず叫んだ。「そりゃあ照れますよ! 人前で接吻なんて!」
それでも与謝野さんは楽しそうに笑っている。太宰さんがぬっとわたしの傍から顔を出した。
「泉、これはもう結婚式なのだよ。だから誓いの接吻も必要なのだ」
「太宰さん何かおかしくなってません? 大丈夫?」