• テキストサイズ

徒然なるままに【文豪ストレイドッグス】

第16章 帰還


 カランカラン。
 扉を開けると軽やかなベルと共に静かにジャズが流れる。わたしはカウンターで一人呑んでいる小柄な男の隣に座った。

「遅ェよ」
「だって夜としか云わないんですもの。夜はわたし達の領域じゃないし」

 わたしは云いながらマスターに蒸留酒を頼んだ。隣に座る中也さんが意外そうな顔をする。

「呑めんのか?」
「苦いから余り好きじゃないですよ。でも折角だし」

 出された蒸留酒のグラスを軽く掲げ、わたしは中也さんに微笑んだ。彼も直ぐに自分の其れを掲げ、わたし達はカチリとグラスを合わせた。
 蒸留酒を舌で転がしながらチョコレヰトを口に放る。苦いお酒と甘いチョコが口の中で混ざり合った。

「其れで? 渡したい物って何です?」
「其の前に。これ見てみろ」
「?」

 首を傾げながら中也さんが投げた書類を受け取る。どうやら報告書のようだった。中也さんが持っているという事は、マフィアの誰かの物なのだろう。

「芥川の報告書だ」
「龍の?」
「手前、白鯨に乗り込んでたそうだなァ……?」

 般若のような顔の中也さんがずいっと近付いた。わたしは引きながらあはは、と苦笑いで誤魔化す。

「足が木の根になってたそうじゃねェか。詳しく聞かせろ」
「えぇ……余り人に聞かせる話じゃないと思いますけど」
「善いから聞かせろ。命の危機だったンだろ」
「う……」

 結局押し負けて、わたしは中也さんに洗いざらい吐かされた。話を聞き終えると、中也さんは「成程な……」と何かを考え込んでいた。

「あの、何か」
「否、何でもねェ。あと云いてェ事はまだ有るんだが」
「何です?」

 中也さんはぐいっとグラスを煽った。その勢いのまま彼はこう告げた。

「マフィアに戻って来ねェか」
「……如何して?」
「手前が居ねェと物足りなくてな」

わたしは動揺を隠すようにちびりと蒸留酒を転がした。苦味が口内を覆った。

「……わたしは探偵社社員です。本来ならこうして貴方と会う事も善くない事ですよ」
「マフィアなら気兼ねなく会える。違うか?」
「其れは魅力的。でも無理です」
「理由は?」

/ 161ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp