第2章 昼下がりの邂逅
「泉さん」
「太宰さん! 御免なさい、仕事場まで迎えに来て頂いて」
「否、善いんだよ。私がしたかっただけだからね」
今日は太宰さんの職場、武装探偵社へご挨拶に行く日。一応わたしは薬剤師と司書を掛け持ちして働いているのだが、今日は上手く調整出来て午前中で上がる事が出来たのだ。
「そう云えば、太宰さんてわたしの事どう説明するんですか?」
「私の彼女として紹介しようと思ってるんだけど?」
「わーわたし太宰さんの彼女だったんだー吃驚だー」
「流石に傷付くよ?」
「冗談ですよ」
そんな軽口を叩き合う内に、探偵社に着いた。一寸緊張しているが、多分大丈夫。うん。
「緊張してる?」
「……少しだけ」
「そんなに怖い人居ないから平気だよ。……否、居るかな?」
「脅すの止めて貰えます?」
探偵社の扉が開く。其処には(恐らく)全員が勢揃いしていた。
「貴女が泉さんか。私は探偵社の社長をしている、福沢諭吉だ。宜しく」
「は、初めまして福沢社長! 如月泉と申します、太宰さんには何時もお世話に……」
其処まで云って止まる。何方かと云うとわたしは何時もお世話する側だったんじゃないだろうか。
「……何時も太宰さんをお世話してます!」
考え抜いた末に云った言葉。此れが意外にも社員の人達にウケたらしい。福沢社長も小さく肩を震わせていた。
「妾は与謝野晶子。医者さ」
「僕は谷崎潤一郎。こっちは……」
「妹のナオミですわ」
「えっと、与謝野さんに谷崎さん、ナオミさん……ですね、宜しくお願いします!」
ぺこりと頭を下げると、また新しく人が来た。
「僕は宮沢賢治です! 賢治で良いですよ、宜しくお願いします!」
「賢治くん……ね、宜しく!」
軽く握手を交わすと、ポソリと小さく可愛らしい声がした。
「……不思議な人」
「へ?」
「あわわ、鏡花ちゃん!?」
敦くんが慌てて呟いた女の子を押さえる。黒髪に和服の可愛らしい子だった。
「えっと、貴女は?」
「私は泉鏡花。さんじゅ……」
「わー鏡花ちゃん!!!」
敦くんが又もや押さえる。
「御免なさい泉さん……」
「大丈夫! えっと、鏡花ちゃんね、宜しく。……敦くんは会った事あるものね」
「そうですね! その節はご迷惑を……」
「善いのよ、あれも縁の一つだわ」