第2章 昼下がりの邂逅
「……さて、大分落ち着いた事だし? 本題に入ろうか」
「落ち着かなかったのは主に太宰さんの所為ですけどね」
わたしは太宰さんの向かいの席に座り、紅茶を啜った。本当は「隣に座りな」と太宰さんに勧められたのだが、わたしの防衛本能が危険信号を出したので止めた。太宰さんが一寸傷ついた顔をしていたのは気付かない振りで。
「というか本題って?」
「うん、君も此処に来て大分経つだろう? そろそろ慣れた頃だろうし、探偵社の仲間に挨拶に行くのも善いかと思ってね」
太宰さんはこの横浜の街を護る、武装探偵社と云う組織の一員。異能力? を使って色んな人と戦ったり仕事をしたりするらしい。と云うのも、太宰さんはあまり仕事内容について話す事は少ないから、わたしが知る事が出来る情報も少ないのだ。因みにこの情報は総て敦くんから聞いたものである。
「探偵社の方々ですか……」
「怖いかい? 嫌なら行かないけれど」
「いえ、寧ろお会いしたいです。太宰さんが信頼する仲間の方がどんな人達なのか、気になりますし」
にこりと微笑むと、太宰さんは少し目を見張った。何か変なことを言っただろうか。不思議に思って首を傾げると、彼はすぐにニヤリとニヒルな笑みを浮かべた。
「ふぅ〜ん、じゃあ今から私の家にでも行くかい?」
「は?」
「あんな事やこんな事しながら、私の過去でも話そうか?」
太宰さんの過去。それは確かに気になる話題では有った。
でも。
「いえ、遠慮しておきます」
「おや、随分消極的だね」
「太宰さん、本当にわたしに話したいと思ってます?」
そう尋ねると、太宰さんは何も云わず珈琲を口にした。カップから湯気は立っていない。
「太宰さんが何を焦ってわたしに話そうとするのかは判りません」
太宰さんは珈琲をコトリとテーブルに置いた。
「太宰さんが話したいと思った時に話して下されば善いんです。其れまでわたしは待ってますから」
ね? こてんと首を傾げると、太宰さんはふっと息を漏らした。
あ、笑ってる。
付き合ってから、太宰さんの表情を読むのが得意になってきた。何時も笑って居るけれど、其の裏にある感情を感じ取れるように。
「……優しいのだね」
「さぁ、如何でしょうね?」
しぃっと自分の口許に人差し指を立てる。さて、探偵社に向かうのは何時にしようか。