第13章 探偵社
【泉side】
いい匂い。落ち着く匂い、わたしの好きな匂い。今度はちゃんとわたしの好きな匂い。
ふっと意識が浮上する。太宰さんの整った顔が目の前にあった。どうやら一緒に寝てくれていたらしい。ふと見ると、太宰さんの目の下に隈があった。どれだけ眠ってなかったんだろう。
コンコン、と控えめなノックが聞こえた。
「はい?」
「あ、泉さん。僕です、敦」
「御免なさい、今動けないの。開いてるから入って来て貰って良い?」
そう声をかけると、扉が控えめに開いた。そこに居たのは敦くんと鏡花ちゃん。わたしはそっと太宰さんの拘束を抜け出し、上半身を起こした。
「二人で来てたのね」
「はい、与謝野先生から聞いて……」
「そっか。……鏡花ちゃん」
俯いて何も話さない鏡花ちゃんに声を掛ける。びくっと彼女の肩が震えた。
ちょいちょい、と手招きをすると鏡花ちゃんは意外にも素直に此方に来た。彼女の頭をふわりと自分の方へ引き寄せた。
「キツイこと言って御免ね。……ただいま」
「……戻って来てくれて、よかった……」
「うん、待っててくれて有難うね」
ぽんぽんと背中を叩くと、鏡花ちゃんは静かに嗚咽を漏らした。「敦くんも、ただいま」立ち尽くす彼にもそう云って笑うと、泣き笑いの顔で「お帰りなさい」と言ってくれた。
敦くんも入れて三人で暫く抱き合っていると、「もーいいかーい」と云う声が聞こえた。
「そろそろ私も仲間に入れて欲しいのだけど」
「だ、太宰さん……」
何時の間にか起きていた太宰さんはゆっくり体を起こし、わたしの方をちらりと見た。嫌な質問をされる予感しかしない。
「何故探偵社に戻ってこなかったのだい?」
ぎく、と肩が強張る。わたしはきゅっと布団を握り締めた。
「……人を、殺したから、です」
「!」
三人の表情がサッと変わる。わたしはあの時の状況を簡単に説明した。三人の厳しかった表情が少しずつ緩むのが分かった。
「何だ、なら正当防衛ですよ」
「過剰ではあるけれどね。まぁ此方で手続きは取れる」
「一人二人じゃ殺した内に入らないし……」
何でこんなあっさり許されてるんだ? 混乱していると、太宰さんがわたしの手を取った。