第13章 探偵社
【太宰side】
医務室の扉を開けると、与謝野先生と紅葉姐さんが居た。二人とも私の抱える彼女を見て目を丸くさせていた。
「何だい、泉帰って来たのかい」
「ええ、先程マフィアとの取引が成立しまして。……と言う事ですから、姐さんはお戻り頂いて結構ですよ」
にこりと笑うと、姐さんはふぅ、と態とらしく溜息を吐いた。
「何じゃ、冷たいのう。私にも泉と話す時間くらいくれても良かろう?」
「彼女は傷が開いて大変なんですよ。話すなら全て終わってからにして下さい」
「つれないのぅ」
ころころと笑いながら私の横を通り抜ける。「中也に取られぬように気を張っておく事じゃな」そんな意味深な言葉を残し、彼女は探偵社から去った。
「……取り敢えず。治療してやるから泉を寄越しな」
「え゙」
「なぁに、ちょっと解体するだけさ」
ふふんと笑う与謝野先生は最早恐ろしい。だが彼女の傷は思っていたよりも深いようで、血は止めどなく流れていた。
「泉」
「……?」
「与謝野先生が君を手当てしたいそうなのだけど、大丈夫かい?」
「……大丈夫、です……。お願いします……」
一寸意識が朦朧としているようだ。だが取り敢えず了承は取れたしと、私は泉を与謝野先生に預けた。
──その後、悲鳴は聞こえたものの、無事綺麗に傷が消えた泉が医務室に戻って来た。
「暫く横になってな。余り寝てないんだろうアンタ」
「……いやぁ、はは……」
「寝不足は美容と健康の敵だよ。今の内に眠っときな。妾は席外すからさ」
パタンと扉が閉められ、部屋には私と泉の二人だけになった。
「眠らないのかい?」
そう云って髪の毛を優しく梳いてやると、泉は私の胸に顔を埋めた。「如何かした?」と尋ねてもふるふると首を横に振るだけ。だから其れ以上は何も聞かず、私は暫く彼女の髪を梳いていた。
すると彼女がぽつりと呟いた。
「……一緒に寝てくれませんか」
「私が?」
「最近、眠りが浅くて……。誰と居ても眠れないんです」
太宰さんなら大丈夫かもしれない。彼女は私の服を握り締めながらそう云った。こんなに弱っている泉は初めてで、私は戸惑いつつも頷いた。
「判った、一緒に寝よう」