第13章 探偵社
「……ふっ」
「何がおかしいの?」
「油断したのは貴女よ……」
犯人は何かのスイッチを目の前にかざした。
「爆弾のスイッチよ。そこに置いてある」
犯人が指したのは執務机の上に置いてある箱だった。蓋を開ければ確かに時限式の爆弾だ。
「遠隔操作も可能なの。このスイッチを押せば爆弾は爆発する」
「……へぇ」
でもこの大きさなら、精々近くの人が木っ端微塵になる程度だ。この位なら。
犯人は迷わず爆弾のスイッチをカチリと押した。
あと三秒。わたしは爆弾を引っ掴んだ。
あと二秒。「皆離れて!」死ぬならわたしだけでいいし。
あと一秒。ぎゅっと落とさないように爆弾を抱え込んだ。
ゼロ。
爆発音と黒煙がもうもうと上がる──訳ではなく、抱えていた爆弾から紙テープと玩具の花が飛び出していた。
「は……?」
パチパチパチ、と拍手が聞こえた。バッと振り向くと、犯人の女性も敦くんも一緒に拍手をしていた。何だこれ。
「泉」
「しゃ、社長……? あの、これは」
「入社試験だ」
「し、試験?」
わたしはきょとんと目を丸くさせた。社長はうむ、と頷く。
「探偵社に入社する時は、必ず試験を行うのだ。社に相応しい高潔な魂を持つかどうかを判断する」
「……じ、じゃあわたしは……?」
おどおどしながら尋ねると、社長はくしゃりとわたしの頭を撫でた。
「合格だ。入社おめでとう」
ほぅっと息を吐く。じんわりと両腕が熱くなり、わたしはふっと力が抜けた。
「おっ、と」
太宰さんが咄嗟にわたしを抱きとめる。腕を見ると、包帯が薄ら赤く染まっていた。嗚呼、特訓の時の傷か。塞がったと思ってたのに、また開いたのか。
「傷だらけじゃないか、泉」
「えへへ……治り遅くって……」
「傷が開いて少しふらついているのだろう、医務室で休み給え」
「でも……わたし、仕事しないと……」
「ふらふらの君に任せられる仕事は今の所無いよ。私も一緒に行くから」
太宰さんに姫抱きにされ、わたしは否応なく医務室に運ばれた。