第12章 トレード希望
ポートマフィアが去って行き、後に残されたのは探偵社社員とわたしの五人だけだった。気まずい雰囲気が流れる中、わたしはくるりと福沢社長に向き直った。
「……福沢社長、命を救って頂いた恩も忘れて逃亡した事、深くお詫び申し上げます。遅くなり申し訳ありません」
深々と四十五度のお辞儀をする。最大限の謝罪の気持ちを込めると、社長はふるふると首を横に振った。
「否、寧ろお前をこんな事に巻き込んでしまって済まなかった。辛かっただろう」
その言葉は闇に沈んでいたわたしの心を掬い上げた。
ぽろり、と涙が零れる。そうだ、わたしはずっと辛かった。人殺しが心に重くのしかかって、苦しくて辛くて。マフィアがわたしを拾ってくれた時、利用されるのだと判っていた。だから助けてなんて言えなくて。
「今日ばかりは、私の胸で泣いても良いぞ」
広げられた腕に吸い込まれるように飛び込んだ。う、うぇ、と嗚咽が漏れる。背中を摩る手が酷く優しかった。
ぽん、と頭を軽く撫でられた。顔を上げると、太宰さんが悲しそうな瞳で此方を見ていた。
「……だざ、さ……」
「戻って、来たのだね。泉」
こくり、と小さく頷く。しゃくり上げながら、小さな声だけれど、それでもわたしは云った。
「……ただ、いま……」
国木田さんが肩を叩き、潤一郎くんは少し涙を浮かべながらわたしの背中に手を添えた。
「おかえり」
四人が一斉に云った。わたしの涙腺は莫迦になったのか、ぼろぼろと後から後から涙が溢れ出た。