第12章 トレード希望
コツ、と靴の音がよく響く。密会の場所には首領と黒蜥蜴の三人、福沢社長、国木田さん、潤一郎くん、太宰さんが居た。
探偵社サイドはわたしがいる事に少し驚いた様だった。わたしはぺこりと探偵社の面々に頭を下げ、首領の方を振り向いた。
「お呼びでしょうか、首領?」
「うん、呼んだよ。──これが最大のメリットだよ、福沢くん」
「……どういう事だ」
福沢社長が厳しい目で首領を睨んだ。首領はわたしの肩を抱きながらにやりと笑んだ。
「君の所にいるウチの幹部と彼女をトレードしようじゃないか」
探偵社と組むことで共通の敵──組合を壊滅させられる。だがそれだけではマフィアにとっての問題を解決出来たとは云い切れない。マフィアは紅葉さんを取り返さなければ意味が無いのだから。
「泉くんはどうしたい?」
「えっ?」
「私としては君を手放すのは実に惜しいんだ。射撃の才もあるし、治癒能力なんて貴重な異能、是非囲っておきたい」
だが、一時停戦の条件としてはこうするしかないのだよ。首領はわたしに選択肢を与えているように見えるが、その実一つしか選べない未来を作り出している。
わたしに他の選択肢は無かった。
「分かりました、元はわたしが持ち掛けた話ですし……。わたしが行かないとこの話自体無くなりますよね」
「まぁそうなるね。どうする? 選択は君に任せるよ」
「選択なんてさせない癖に……」
クスリと笑う。首領は唯ニヤニヤと笑っているだけだった。
「探偵社に戻ります。その代わりきっちり約束は守って貰いますよ」
「無闇に承諾は出来かねるけどね」
首領は食えない笑みでそう云った。「じゃ、駄目だった場合の策も考えておきますね」と云えば、首領は楽しそうに声を上げて笑った。
「それが君の最適解だ」