第12章 トレード希望
次の日、部屋の扉がノックされた。着替えを済ませたわたしが扉を開けると、コートを着た年老いた紳士がそこに立っていた。
「貴方が黒蜥蜴?」
「はい、私は黒蜥蜴の広津と申します。首領の命令により貴女を迎えに上がりました」
「広津さん……ですね。有難う御座います」
「外に車を停めてあります、此方へ」
外はもう暴れる人も黒煙も上がっていなかった。ただ、昨日の騒動の爪痕が色濃く残っていた。こんな中で中也さん達は戦っていたのか。
流れる外の景色を見ていると、首領から声が掛けられた。
「泉くん」
「は、はい?」
「君は私が良いと言うまで車で待機でしていてくれ。良いね?」
「……何故ですか?」
「デザートは最後に取っておく方が良いだろう?」
意味が判らない。だが、そう云ってしまえばわたしは此処で殺されるのだろう。わたしの隣にはくせの強い黒髪を上に縛りあげ、マスクをした少女が座っており、目の前には鼻頭に絆創膏を貼った目付きの悪い男がいる。二人とも黒蜥蜴の一員だと云う。首領に一つでも逆らえば、彼らが黙ってはいないだろうから。
「君の携帯に連絡を入れよう。電話が来たら降りて来たまえ」
「はい」
キッと車が停止する。黒蜥蜴の三人が先に降り、周りを確認してから首領を降ろした。
「では少し待っていてくれ、お姫様」
バタンと扉が閉まる。ぞわわわ、とわたしは全身の毛穴が広がる思いだった。お姫様って歳でもないんだけどわたし!?
暫く車の中で待っていると、カィーン!という金属音がした。何事か、と思わず腰を上げる。
だがその後は何も起きず、わたしは座席に深く沈んだ。とその時、携帯が着信を報せた。
「……はい、如月です」
『来たまえ。デザートの時間だ』
「畏まりました、首領」
ピッと電話を切る。福沢社長は確実に居る。護衛として国木田さんか潤一郎くんが居るだろうか。わたしは呼吸を整えた。……よし。
車のドアを開け、わたしは密会場所へ向かった。