第12章 トレード希望
コンコン、と扉をノックする。「誰かね?」首領の声が聞こえると、わたしは何時も通りに名乗り、部屋に入った。
「首領、僭越ながらお願いがあるのです」
「唐突だねぇ。如何したの?」
楽しそうに笑う首領に、わたしは云い放った。
「武装探偵社と、一時的な同盟を結んでいただきたいのです」
そう云うと、首領は少しぽかんと目を丸くさせ、ふっと笑いだした。一頻り笑った後、首領は指を組みかえ、鋭い視線でわたしを射抜いた。
「……同盟を結ぶメリットは?」
「この横浜の街を潰そうとしているのは組合です。そして、横浜が無くなって困るのは探偵社もマフィアも同じです」
「成程……。共通の敵がいるのなら、協力して倒した方がお互いの為になる、と?」
「ええ。其れに、探偵社には頭脳が、マフィアには武力が揃っています。組合に対抗するなら、お互いの邪魔をせず仕事をするのが一番だと思うのですが」
「ふふふ……はっははは!」
首領は組んだ指に顎を乗せ、至極楽しそうに笑った。そして笑みを絶やさずにわたしを見つめた。
「善いだろう。丁度今、探偵社からも密会の申し入れが来たんだ。私はこれに参加しようと思っているよ」
「……」
「君も来てくれるかい?」
「何故、わたしが?」
「ボディガードとして黒蜥蜴にも付いて来て貰うけどね。君は探偵社にとって大切な人のようだから」
「……人質、ですか?」
「否、マフィアの仲間を人質になんてしないよ。交渉を有利に進める為の作戦さ」
わたしはふぅっと息を吐いた。恭しく頭を下げる。
「畏まりました、首領」
「うん、じゃあ明日黒蜥蜴に迎えに行かせる。宜しく頼むよ」
パタンと扉を閉める。せめて彼らと協力体制を取れれば、組合に勝てるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら。