第12章 トレード希望
酒盛りの夜から数日が経った頃、事態は急変した。
時刻は夕方にさし迫る。わたしは未だに治らない切り傷に薬を塗り込んでいた時だった。
感じたのは微かな爆発音と振動。直ぐに包帯を巻き直し、わたしは窓の外を見た。高層ビルだから真下の街はよく見える。そして其の街には黒煙が上がっていた。
「……どういうこと……!?」
所々で爆発が起こり、横浜の街は混乱に陥っている。何故こんな事になっているのだ。
と、わたしの部屋の扉が勢いよく開いた。
「泉!!!」
「ち、中也さん!? ま、街が……!」
「あァ判ってる! 俺達は街に降りて暴れてる奴らを止めて来る、手前は此処に待機してろ」
「中也さんが行くならわたしも行きます!」
「駄目だ、手前がいたら寧ろ足手まといになる。それにこの事態は組合に捕まったQの仕業だ」
「Q?」
「俺達の鬼札だよ。彼奴の人形を太宰に渡せればこの騒ぎも収まるが……」
兎に角、手前は部屋に居ろ。中也さんはそう云い残して部屋を出て行った。
『足手まといになる』
其の言葉はわたしに深く突き刺さった。相手を助ける代わりに自分が傷つく、そんな役立たずな異能しか持ってない。射撃だってそこまで得意な訳じゃない。だから中也さん達実働部隊と居ても役に立たないのは判っている。
じゃあわたしは如何すれば良い? 此のまま守られるだけの女でいていいの?
──そんなの絶対に嫌。
わたしに何が出来る。街の人達の怪我を治す? 何百人と居る人達の? 無理だ、治しきる前にわたしが死ぬ。戦いに参加した所で焼け石に水、あの人達の方がよっぽど強いし役に立つ。Qの人形だって組合の手にあるだろう。じゃあ如何すればいい、何をすれば……。
「……そうだ」
わたしはバッと立ち上がった。向かうは首領の部屋。