第10章 踊り子の誕生
そろそろ、夕食の時間も近くなり、祭りも終盤近くに差し掛かった。祭りの見せ場でもある踊り子のショーに入る時間になった。
「ようこそ!!皆様、大変お待たせいたしました!この舞をみて、今年も1年幸多き年になります様…!!」
そうアナウンスが入る。客席の前側にほど近い場所で、悟空や悟浄、八戒は席を用意されていた。三蔵の席もあるもののそこはやはり空席になっている。
「なぁな、やっぱり三蔵来ないのかな…」
「まぁ、一旦言い出したら聞かねぇからなぁ…」
「でも、雅は見てほしかったようですけどね…」
そう言いながらも辺りのライトの色味がふと変わった。
「さ、始まりますね!」
そう雰囲気を変えようと八戒が声をかけた。音が鳴り始め、ライトがステージを照らす。
しかし、そこに雅の姿は居なかった。
「あれ…雅?」
会場内は少しざわつくものの運営側は何も騒ぎにならない…少しするとパッとライトの色がはじかれた。
次の瞬間、ステージには衣装に身を包む雅が居た。
音に合わせ、流れるように……長い髪をゆらゆらと揺らし、これほどまでにしなやかだったかと、3人ですら目を疑うほどにきれいだった。
客席からは声が聞こえない…ただあるとすると、感嘆としたため息交じりの声だけだった。
「すっげ……きれい…」
「……えぇ。」
ただ八戒の目には、雅の表情が少し淋しげに見えていた。それは悟浄にとっても同じだった。
「やっぱ…三蔵に見て貰いたいな…」
「ですねぇ……」
そう見ていると一旦曲はフェイドアウトしていく。ステージに座り込む様にして第1幕を終えた雅。すぐさま音が流れる。次の瞬間だ。
「さ…んぞ……ッッ」
遠くを見つめた雅の唇がゆっくりと動いたのを八戒は見逃さなかった。席を立ち、後ろを振り返ると客席の後方、木の立つ木陰に凭れた三蔵が居た。
「……俺!やっぱり三蔵呼んでくる!!」
「悟空?良いんですよ」
「良くねぇよ、八戒!」
「……来てますよ」
そのひと言で悟空の動きはぴたりと止まった。そんな悟空を座らせて八戒は続けた。