第10章 踊り子の誕生
その目に…
本来ならば『あぁ』と頷きたくなった思いがどこかにあった。 そのはずなのに…
「俺は行かねぇよ?悟空や悟浄、八戒が行くって言っていたからな。」
そう答えていた。……そんな次の瞬間だった…
「三蔵にも見て貰いたかったな…」
そういう雅の声が、した。
耳を疑いたくなった……
どうしてそんな事をいう……
優しさのかけらもない俺の返事に雅は『もういい』といって部屋を出て行った。
「どうしろっていうんだ…全く」
そんな時だ。八戒の言葉が嫌でも蘇ってくる。
『三蔵?もう少し素直になったらどうですか?』
「俺が?……ハッ、ばかばかしい…」
そう呟くものの、あの泣きそうになった雅の目が瞼の裏に焼き付いた。昼間はあれほどに笑っていたのに……
「クソ、どうして俺は……」
オレ ハ ・・・?
その先の言葉が自分自身ですら解らないでいた。そんな時、扉の反対側で悟空の声が響いている。それほど薄い扉では無かったはずなのに…
「うるせぇよ…」
扉を開けてそう言うしか他に術は無かったのかもしれない。悟空を注意すると反抗期の如くに反論してくる。しかし八戒が珍しく口を挟んだ。
「雅に何言ったんですか?」
「…別に、今夜の踊りを見に来てほしいと言われたから断っただけだ。」
そう返事をした直後。八戒の目は一瞬スッと細くなった。
舞を見るくらいいいじゃないかと騒いでいる悟空を余所に置いて八戒は続けて言う。
「三蔵、もう少し素直になったらどうですか?」」
…・・ほら、まただ。八戒に最近よく言われる。だけど俺自身の心は『何か』を認めてはいけない様な、ただ、その何かが自分自身曖昧になっていた。
「そんなに舞に興味があったとはな」
「僕が興味あるのは雅の舞う舞に、です」
そうきっぱり言い放つ八戒。何か話したようなおぼろげな感覚はあったものの最終的に俺自身、八戒の言葉にふと思いが籠る。
「宿位他に探してもよかった。」
「よくそんな事が言えますね!!」
その後、じきに八戒は悟空を連れて部屋を後にしていった。残された俺はベッドに横たわり天井を仰ぐ。
「気にならねぇ訳…ねぇだろうが……」
無意識にぽつりと口走った言葉は誰の耳にも届く事は無かった。
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