第5章 トラブル
「ごめ…ッ…そうじゃなくて…おいしくて…」
「泣くほど?それなら雅の方の飯や甘味のが俺にしたらもっとうまいぞ?」
「……誰かと一緒にって……この所ずっとなかったから…」
それを聞いた悟空はんー…っと…考えた後に雅の顔を覗き込んで笑いかけた。
「でもさ?それは今までだろ?それでも雅の中では父ちゃんや母ちゃんとの旨い記憶もあって…これからは俺らと一緒に飯食えるじゃん!だからそんなに泣くなよ…!」
「……うん…っ…そうだよね…悟空の言うとおり…」
そう返事を返すと雅は涙を拭い、もう一口パクリと豚まんをかじった。
「…おいしい」
「な?!おいしいよな!!!」
そうして見ている間に買って来たもののほとんどが悟空の胃袋に収まって行った。
――――…一方の八戒…
悟空と雅を街中に送り出した八戒は三蔵の部屋にむかっていた。扉の前に立つと少し考えた後、ノックする。
「……?三蔵?……入りますよ?」
そう一声だけかけて八戒は中に入って行った。中では窓際のソファに腰かけて新聞を読む三蔵の姿があった。
「…何だ?」
「いえ?あ、雅かと思いました?」
「…言ってろ。」
「彼女なら悟空と一緒に町に食料求めて出て行きましたよ?」
「フン…悟空の御供だろう。ご苦労な事だ」
そう言い放つ三蔵を横目に八戒はベッドの縁に腰かけた。
「三蔵が珍しいですね…」
「…何が言いたい?」
「いえ、これと言って特に何かを言うつもりはありませんよ?ただ、悟空以外にあれほどすんなりと誰かを受け入れるのは珍しいと思っただけです。」
「別に、受け入れた訳じゃねぇよ。うるせぇからだ。」
「その『うるさい』とは、雅がですか?それとも僕ら3人が、ですか?」
「……」
無言のまま新聞をパラリとめくる三蔵の姿に八戒は小さくため息を吐いた。
「…貴様はそんなくだらん事の為に来たのか?」
「くだらなくないですよ?ただ、悟空が心配してました。」
「何をだ。」
「ぜってー三蔵がベッド使うぞ?!って」
「何の心配だ。知らねぇな」
ばさりと新聞を放り投げ、眼鏡を外す。そのままフッとひと櫛髪を掻き上げて窓の外を見つめた。