第4章 我慢強い後輩
ココに人がいるんだから続けるなよ、と言う牽制だ。
そのまま訝しむ国光の背中をぐいぐい押して、カウンターへ向かったのだった。
***
「?顔が赤いが、熱でもあるのか?」
「え?そう?今日ちょっと暑いからそのせいかな〜?」
あの後、無事本の貸し出し手続きを終えた私達は中庭のベンチでお弁当を広げていた。こんな機会は中々無いので昨夜から楽しみにしていたのに、先程の件が頭の中をぐるぐるして国光の顔がまともに見られない。
あんな情事じみた現場を目の当たり…いや、見たわけでは無いのだけど、それらしき現場に居合わせた事なんて初めてだし、私達はまだ清いお付き合いだし、正直色々脳内パニックなのだ。
いつかは、いずれは、私も国光とあんな風に…なんて恥ずかしい妄想にまで次第に思考が飛び始めて、動揺から最後にころんと残っていたミニトマトが全然お箸で掴めない。
「、やはり図書室で何かあったのか?」
「え…っ?!そそそ、そんな事無いよ?ミニトマトって皮がつるつるしててお箸で摘みにくいよね!」
じっと国光が見透かす様な目で見つめるから、私は更に耳までじんじんと赤くなるのを自覚した。
「貴女は意味もなくそんな表情はしない」
視線を逸らそうとしたのに、ぐいっと顎を引き寄せられて、逃げ場を失う。じっと国光の探るような視線を浴びせられて、ハッとする。
「や、やだやだ国光そのエスパー技使わないで!!」
いろいろと物語ってしまうらしい私の視線と、国光の洞察力はどうにもすこぶる相性が悪い。
「俺はエスパーではないが、その視線の動き、動揺ぶり…なるほど…何となくは理解した」
「ダメー!理解しないで!!きらきら純情中学生には関係無い事です!」
国光を突っぱねるように距離をとると、ピクッと眉がわずかに跳ねた。何とか国光の腕から逃れたものの、空気は決して良いとは言えない。
「あ、く、国光…?怒った?ご、ごめんって…」
国光は私に中学生扱いされる事をあまり好まない。
見た目も雰囲気も中学生のそれではない癖に、そんなところは年相応なんだから困ったものだ。
「…いや、何でもない」
一瞬灯った怒りの炎がすうっと消えていくように落ち着く。恐らく、年下扱いされて怒る行為が皮肉にも年下らしさを助長してしまう事に彼自身気付いているのだろう。