第4章 我慢強い後輩
せっかくのランチが微妙な空気になってしまったまま、昼休み終了の時刻が迫っていることに気付き、悲しくなる。
残っていた最後のミニトマトを箸でつまむのを諦めて、指先でひょいっとつまんだ。そのままトマトを口に運ぼうとした腕が突然引かれて、それは何故かぱくりと国光の口の中に納まった。
「え…」
指ごとぱくりと咥えられ、ちろりと国光の赤い舌が私の指先に触れた。あまりの突然の国光の行為に頭がついていかず、解放された自分の指と国光の顔を交互に見比べる。
当の国光はというと、もぐもぐとミニトマトを咀嚼して胃に収めると何故か満足げに、と言うよりは、年相応の悪戯っぽい顔で笑っていた。
「俺に隠し事をした罰だ」
あの端正な横顔がこんな風に緩んでいるのは中々貴重で、しかも微妙だった空気を和ませようとしてくれたのだと気づいて、こそばゆい感覚になる。
「も、もう、別に隠し事って言うほどの事じゃ…」
「ほう、罰はもう少し厳しい方がいいのか?」
「あ、いえいえ、隠し事してすみませんでした!!もうしません!!!」
たっぷりと誠心誠意反省の意を伝えると、堪え切れない様子で国光が微かに吹き出した。
「そんなに嫌がるなら、もう隠し事はしないことだ」
そう言って国光が私の指先に触れるだけのキスをした。
「それから、あまり無防備に物欲しそうな表情はしないように…いくら俺でも、我慢が聞かなくなる」
「あ、ひぇ…はい…気を付けましゅ…」
先ほどの妄想までもが国光に筒抜けだったのかと思うと、沸騰したやかんみたいに真っ赤になりながら、私はこの後輩が我慢強くて助かったなぁと安堵の息を漏らすのであった。