第3章 嫉妬深い後輩
手塚国光と言う男は、案外独占欲の強い男だ。
それを嫌と言う程思い知らされたのは、中等部の男子テニス部を覗きに行った時の事だ。
「あ、先輩が来てくれたにゃーっ!」
学内行事の都合で部活が休みになったので、こっそり見学しようと思ってたのに…よりにもよって一番賑やかなのに見つかってしまった。
「英二、そんなに引っつかれると暑いよ」
「えー?いーじゃんいーじゃん!久しぶりなんだからさー!」
いつもの事とは言え、170cm超えの英二に抱きつかれると流石に潰れそうだ。私が中等部3年生の時新入生として入部してきた英二はあんなに小柄だったのに。
「桃先輩、あの人誰ッスか?」
「確か高等部の女子テニス部の先輩…だったような」
「そして我らが部長、手塚国光の彼女だ」
フォローする様に後ろから登場したのは乾。
二人の後輩君たちはギョッとした後、しげしげと値踏みするような視線を浴びせてきた。
「手塚部長、彼女いたんスね…」
「流石部長…しかも年上で可愛いときていやがる」
君たち、聞こえているよ。
なんだか気恥ずかしい。
「英二、先輩が困っているよ。あと、さっきから3年の教室から怖い視線を感じるから、覚悟しておく事だね」
英二を引き剥がしてくれた不二がニコニコしながら思わせぶりな視線を3年の教室へと向ける。
つられて視線を向けると、そこには見るからに鋭い眼光の手塚…。
「はぇっ!?お、大石、助けて!手塚がめちゃくちゃこっち睨んでるにゃー!!」
みるみる顔が青ざめていく英二は大石のもとへ逃げ、その様子に私も顔を引きつらせる。
「じゃ、じゃあ、お邪魔にならない様に見てるから、不二も練習頑張ってね」
鋭い眼光を背中に感じつつ、これ以上練習の邪魔をしないようにと隅で見学させてもらう事にした。
放課後とは言えまだ日も高い時間帯。
強い日差しが降り注ぐ中、懸命にボールを追い掛ける少年達。
明確な目標、それを共有できる仲間、超えるべき壁。
「うーん、青春だねぇ」
打球音が耳に心地良く響く。
一番気持ちの良い音をさせているのは誰か…と各コートへ視線をやる。
「彼、噂の1年生ルーキー君、かな…?」
なるほどなるほど、と興味津々で彼の動きを眺めていると、背後に人の気配。
「随分と熱心に見ていますね、越前が気になりますか?」