第2章 へそ曲がりな後輩
「へ…?」
手塚の真剣な話に水を指すような間抜けな声を挙げてしまった。
いや、だって、何でもそつ無く熟す手塚が、私に対してそんな風に思っていようとは全く予想だにしていなかったのだ。
「もう、私には、手塚の方がよっぽど立派な大人に見えてるのに…不思議。手塚はほんっとーに、真っ直ぐだね」
空いている方の手でサラサラの髪を撫でる。
「手塚を好きな気持ちを恥じたりしないよ。ただ、いらぬお節介や揶揄いを受けるのが恥ずかしいってだけ」
ようやく手塚の眉間の筋肉が緩んだ。
公園の街灯に照らされる手塚の表情が柔らかくなる。
「傷付けてごめんね」
ちゅっと啄むようなキス。
「それにしても、手塚がそんな事で悩んでたとはなぁ。意外だったなぁ。手塚は私と違って何でも出来るのに」
「先輩…」
「そうだ!ならさ、その先輩呼びと敬語を手始めにやめてみたらどうだろう?」
対等な彼氏彼女の関係と言うには、今の口調はどうにも堅苦しい。私はもう慣れっこだけど、折角の良い機会だ。
「それは、しかし…」
「二人でいる時だけでも良いから」
体育会系の厳しい環境に長く身を置いている手塚には中々の難題だろうけど、そういう臨機応変さはきっと彼の人生をもう少し生きやすくしてくれるのではないだろうか。
「ほら、って呼んでよ、く、国光」
手塚一人だけに恥ずかしい思いをさせるのはフェアじゃないから。それに良い機会なのはお互い様だ。
「先輩…」
「わ、私だって、恥ずかしいんだから今顔見ないでよね」
むぎゅっと顔を隠すように抱き着いて誤魔化す。
耳まで赤い自覚はある。
やがて、さっき私がしたみたいに今度は手塚が私の頭を撫でてくれた。
「俺は、のそういう表情豊かな所が好きだ」
耳元で、その脳に響き渡る低い声で、囁くのはズルい。
自分は子供だなんて卑下してみせる癖に、そういうテクニックは一体どこで覚えてくるのだろうか…。
ぎゅぅと抱き着いた手塚の体温が心無しかいつもより高い気がして心地良い。
今日もよく眠れそうで何よりだ。