第1章 油断ならない後輩
そして、本日10度目の溜息。
「先輩、もしかして気付いてらっしゃらないんですか?」
「何を…??」
「先輩の視線は、その…もの凄く…」
手塚が何やら珍しく口ごもる。
私、知らぬ間になんかやらかしていた??
「わかりやすいんです…」
「………は?」
目は口ほどに物を言う、とはよく言ったもので。
何故か少し照れたような様子で手塚少年が口元を抑える。
「自覚が、無かったんですね」
つまり何か?私は常日頃から視線で手塚に手繋ぎたいアピールとか、キスしたいアピール的なことをしていたと…?
その電波(ならぬ視線波?)を手塚が受信して、応えてくれていたと…??
「ナニソレハズカシスギルワ」
恥ずかし過ぎて思わず真顔になるわ。
穴があったら入りたい。
「先輩はわかってやっているものだとばっかり…」
「お願いだからそれ以上フォローに見せかけた傷口に塩を塗る行為は辞めて」
これではギャフンと言わせるどころか、こちらの完全敗北ではないか…。
「その……先輩が先程から何に拘っているのかはよく分かりませんが、俺は自分からその様に感情表現をするのが一番不得手なので、出来れば先輩にはもっとその目で俺を見つめて欲しいと、思っています」
珍しく手塚がそんな風に自分の感情を吐露するものだから、びっくりして、恥ずかしいのも忘れて、もふっと生意気な後輩の胸に飛び込んだ。
「先輩…」
「しょーがないから今日は引き分けって事にしておいてあげる」
だから、抱き締めなさい。
視線でそう訴える。
生意気な後輩の癖に。
次は負かす。
そう思ってたのに。
「先輩、抱き締めるだけじゃ足りないと、顔に書いてありますが…」
穴があったら入りたい。