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後輩《テニスの王子様 手塚国光》

第1章 油断ならない後輩


手塚国光と言う男は、油断のならない男だ。
普段から「油断せずにいこう」が口癖なのだから当たり前なのかもしれないけれど。
こっそり横顔を盗み見ていても、当然のように気付かれる。


「先輩、手が止まってますが…またいつもの考え事ですか?」

ほらきた。
先輩と呼ばれた少女ーーは握っていたシャーペンをくるりくるりと回してから、図書館の机に盛大に突っ伏した。

「だって、折角手塚とデートだと思ったのに、図書館でテスト勉強なんて詐欺だよ…」

「テスト勉強が捗らなくて困ると仰っていたのは先輩ご自身だったと記憶していますが…?」

後輩の癖に的確なつっこみと呆れ顔。
なんて生意気なんだろう。

「あーあ、テストの科目が全部テニスだったらラクショーなのになぁ…」

「それでは社会に出てから色々と困りますよ。先輩は特に」

正論過ぎて返す言葉も無いけれど、先輩としての沽券に関わるので、今日こそは何としてもこの小生意気な後輩兼彼氏にギャフンと言わせたい。
その為の策を練って思考の海を泳いでいたのである。


私が手塚より勝っている事と言えば、年齢が上な事ぐらい。
高校2年生と中学3年生。
中学生の頃は高校生って凄く大人な存在だったけど、実際なってみるとこれがどうしてなーんにもかわらない。
とどのつまり、私が手塚に勝ってることなんて、ちょっと勉強の知識が進んでいる程度だと言う事だ。


「ねー手塚ー、ギャフンって言ってみて?」

ダメ元で頼んでみたものの、返答はと言えば…

「言いません。あと、図書館ではお静かに」

余計なお小言付き。

「何かないかなー、私が手塚に勝てる事」

すっかり勉強に興味を失くした私の様子に、手塚は本日何度目かの溜息をつくと同時に開いていた教科書を閉じた。


夕焼け空にチラチラと星が瞬く。
夕方と言うには少し遅く、夜と言うにはまだ早い。

私と並んで歩く時、手塚は少しだけ歩調を緩めてくれる。
手を繋ぎたいなと思った時、そっと手を差し出してくれる。
キスしたいなって見つめてると、ちゃんとわかってくれる。
生意気な後輩の癖に。
何で全部わかっちゃうんだろう。

「もしや、手塚ってエスパー?」

自分の思考の結論をいきなり口にしたものだから、流石の手塚も一瞬固まった。私の言わんとしている事を推理する事数秒。
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