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後輩《テニスの王子様 手塚国光》

第5章 心配性な後輩


手塚国光という男は、先々の懸案事項に対して幾通りもの対策を準備し、不測の事態にも焦らず的確に対処できる男だ。
ただ一つ、の突飛な思いつきを除いては。




「温泉旅行?」

母親が藪から棒に口にしたその言葉に、私は朝食の目玉焼きを食べる手を止めた。

「そうなの、優待券を2枚頂いてね。それで今度の週末なんだけど、お父さんと行ってきても良い?」
「ふーん、そう言う事なら私は別に良いけど…いいなぁ温泉、部活が無きゃ私も無理矢理ついて行くのになぁ…」


ぶーたれながら、固めに焼かれた目玉焼きの黄身をパクリと頬張り、週末の夜に思いを馳せた。



***




「ーーーーと、言う訳なんだけど、週末一人じゃ怖いから国光泊まりに来て!」


ズバッと勢いよく頭を下げる。
我ながら甘ったれた事を言っている自覚はあったが、一人っ子の一人娘、今まで散々甘やかされた私は、家での留守番がそれはそれは大層苦手だった。

ベッドの下から何か出てくるかも、ドアを開けたら殺人鬼がいるかも、シャワー中背後に誰かが立ってるかも……とか想像し始めると際限なくサスペンスやホラーな展開を脳みそが思い浮かべてしまうのだ。

部活終わりの夕暮れ時。
部室の鍵を閉める国光を突撃した。
隣で鯉のように口をパクパクさせる大石をよそに、国光は数秒の間を置いてから、苦々しげに口を開いた。

「その…ご両親に、了承は得ているんですか…?」
「うん、お母さんは手塚くんが居てくれれば安心ねって言ってたよ?」

ぱっと期待の眼差しで顔を上げた。
真面目で礼儀正しい国光をいたく気に入っている母は、二つ返事で了承してくれた。
無言で頭を抱える国光に、母の伝言が追い打ちをかける。

「お土産期待しててね♪だって」

眉間の皺と溜め息の合わせ技で難色を示していた国光だったけど、捨てられた子犬の様な目で頼み込むと最後には観念したのか小さく頷いた。

「練習の後、伺います…」


固まったままの大石を余所に、は上機嫌でガッツポーズを決めるのだった。


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