第10章 Austrian Briar Rose
料理を一通り食べた俺たちは彼女が淹れてくれた特製ハーブティーで一息ついていた。
そういえば彼女と暮らしてから紅茶を飲むことが増えて酒の量がめっきり減った。
昔から強くない方だが、さらに弱くなっているだろう。
でも、彼女と紅茶を飲むこの時間はたまらない幸せである。
「あ、あの…ロシー」
不意に彼女に呼ばれる。
彼女は椅子から立ち上がり、俺の元に歩み寄る。
その手には…
「これ…誕生日プレゼント」
綺麗な水色の包みに白いリボンが結ばれたプレゼント。
俺は礼を言って包みを受け取り、リボンを解く。
中から出てきたのは…
「こいつは…」
デニム生地にRの筆記体のイニシャルが金色の糸で刺繍されたケースの様なもの。
最初は分からなかったが、ふと何を入れるものか思いつく。
「シガレットケースか…?」
俺の問いに彼女はコクンと頷いた。
昔より本数は減ったが、俺は今でも煙草を吸う。
きっと時間の無い中で必死に考えたプレゼントがこのシガレットケースだったんだろう。
「近所の奥さんに相談して…いっぱい助けてもらったけど頑張ったの」
彼女の言葉はケースを見たらすぐにわかる。
ケースの縫い目が少しガタガタしていて、筆記体の刺繍もうまく縫えていないところがある。
目が見えない彼女にとって、裁縫は非常に難しいこと。
そんな彼女が俺の為に一生懸命作ってくれた。
「…嬉しいぜ。早速使わせてもらう」
俺はポケットに入っている煙草を取り出し、ケースの中に入る。
サイズもぴったりだ。
「ほら、サイズもぴったりだ。ありがとうな」
彼女の手を取り、たばこが入ったケースに触れさせる。
「ほんとだ…」
嬉しそうに笑う彼女を見て、ケースをテーブルに置くと彼女を抱き寄せる。