第3章 報復は我に任せよ、我これに報いん
「ふふっ、キミ達が仲良しだろうとなかろうと私の"駒"である事に変わりない。私は忠実に仕事をして貰えれば構わないよ、太宰君、中也君?」
森は喰えないような微笑みを2人に向けるとヨコハマの街を一望する全面硝子張りの窓の前に立った。何の気も無く、ただ微笑みを湛えて、ヨコハマの街を見下ろす。
高層のポートマフィア本部の首領の執務室からの一望は、近代的なみなとみらいの街並みと清々しいヨコハマ港を前にした美しい眺望だ。若しここがポートマフィアの地所でなければ、億単位の高層高級集合住宅にでも成っていただろう。
しかしそんな事は森にとって些細な事でしかない。彼の愛する、この美しい街の何処かで彼らの目を盗み、勝手に取引を行っている不埒な輩に罰を与え、ポートマフィアへの畏怖と忠誠を誓わせる事こそが、早急に解決すべき案件だった。
太宰と中原は、ごくりと生唾を飲み込み、首領からの言葉を待っていた。
「では、改めてキミ達2人にお願いしたい事を話そうか。太宰君は、よく分かっていると思うけれど、今我々ポートマフィアの財政はギリギリのところなのだよ。
この間の荒覇吐事件の事もあったし。まぁ、内部の権力構図に関してはもうこれ以上手を汚す必要は無いが…。
ところで我々の様な商売にとって1番の財源とは何だと思うかね?」
森は2人に問いかける。その問いにすっと太宰が答える。
「"薬"、ですね。森さん」
それを聞いた中原は一瞬不快そうな顔をする。それを目の端で見逃さなかった太宰は中也に少しの侮蔑を込めて言う。
「罪悪感でも感じてるのかい、中也。キミは本当にお子様だねぇ。」
「うっせぇよ、それくらい分かってらァ。」
中原は少しむくれてぶっきらぼうに太宰に応える。彼らの様な裏社会の人間が、選り好んで"商売"をするなんてことが出来ない事くらい中原にも分かっている事だったが、それでも彼は"薬"に対して良い感情を持たなかったらしい。
そしてその事を太宰に指摘され、中原の眉間の皺はより深くなった。そんな中原に同情するつもりではなかったが、実際のところ森も同じ考えだった。