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ノートル・ダム・ド・ヨコハマ

第2章 私は神に向かって声を上げて叫ぶ


彼女は全身に走る激痛に耐えながら、掠れるような声で森に答えた。
「貴方を…恨みは…しない。"神"が…私を…赦さない…だけ…。」
そう答えるだけで彼女は精一杯だった。余りに悲痛なその言葉に身を切られるような感覚が森を襲う。この少女にとって"神"は麻薬なのだと。そして"それ"が彼女を苦しめている。分かりきった事だったが、森は彼女に再び問うた。
「そうか…。ところで君は"神"なるモノを信じているのかい。」
「…わから…ない…です。で…も、私…は醜くて…"悪魔の力"を持って…から…神様から…愛される…ように…生きなければ…ならない…と司祭様が…。」
「苦しいかい、無理に済まなかったね。少し眠りなさい。」
苦しそうに答えた少女に森は、労いと彼が与えうる最大の優しさを以て、目を閉じさせた。エリスが鎮痛剤を持ってくる。森は慣れた手捌きで少女の腕に鎮痛剤を打つ。
そして、少女が寝息を立て始めるとそっと頭を撫で、手の甲に接吻を落とし、病室を後にした。

「君が、どうして"悪魔"だと云うのだろう。君はこの欲望渦巻くヨコハマに舞い降りた"天使"だ。
君のその"力"、私の下で振るえばいい。そして、このヨコハマに暴力という名の"秩序"を与えてやりなさい。」

不条理な世界が神のモノであるなら、この少女は生まれて初めて"不条理"から解き放たれた。皮肉にもそれは、彼女の欲した"神"ではなく、神に叛逆せし合理的な"魔王"によってであった。
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