第2章 私は神に向かって声を上げて叫ぶ
森は患者の横たわるベッドの傍まで来ると、ベッドの端に軽く腰掛け、患者の脈を測った。正常だが、患者は目を覚ます様子が見られない。森は自分の見当違いだったのだろうかと小さく溜息を吐く。
「この子、このままずっとこのままなのかしら。とっても可愛い子なのに可哀想。ねぇ、リンタロウ、若しこの子が目覚めたら、私と仲良くしてくれるかしら?」
「さぁ、どうだろうねぇ…。私としても彼女に目覚めて欲しいし、手は尽くしたのだけれど…。」
その時、声にならぬような、呻き声が患者の口から漏れた。エリスと森は、はっとして横たわる患者を見詰める。
「何故…、死なせて…くれ…の。」
そう森には聴こえた。彼女程の齢の少女の口から"死"という言葉が飛び出した事に、森は一瞬悲しげに顔を歪ませた。それは今彼女が体感している物理的な苦痛の叫びではなく、彼女の過去から与えられる精神的な苦痛からだと森は悟ったからだ。
「君を生かした事で君に苦痛を与えたかもしれない。けれども、私は君を救いたいと思ったのだよ。これは私のエゴでしかない。恨むなら私を恨むといい。」
森は努めて冷静に、いつもの残酷さを以て彼女に話し掛けた。