第1章 【シリウス夢】気付いたら好きで
盛り上がっている2人のテーブルは周りからの注目の的だったが、2人は夢中で薬を作っていたのでまるで気付いていなかった。いや、気付かないふりをしていたのかもしれない。
「、超ラッキーだったね!」
「マジでズルイよ〜、興味無いんでしょ? 変わってくれれば良かったのに〜」
普段そこまで仲が良いわけでも無い人達までもが、授業が終わった途端にやって来ては声をかけてくる。
「いつからあんなに仲良くなったの?」
「今度、紹介してよね〜」
面倒くさい。
まず、あなたは誰? そんな風に話しかけられる筋合いはないと思うのだけど?
心の中で悪態づきながら、表では曖昧に笑うだけでかわす。
ま、でも確かにラッキーはラッキーだったと思う。楽しく授業が出来たし、その出来もかなり良かった。
シリウスは思った以上にとっつきやすく、一緒にいて楽しかったのも新たな発見だ。
これからは挨拶くらいはするようにしよう。
「おい、」
突然響いた声に、私だけではなく周りにいた女子も一気に固まった。
その声の主は現在話題真っ只中のシリウスだったからだ。
「おい、返事くらいしろよ」
呆れた様に言うシリウスに、反射的にごめんと返すが、
(あれ? 今、私…呼ばれた? 名前で呼ばれたの??)
嬉しいというより、周りを気にして一瞬血の気が引いた。
これはまずい。非常にまずい。
彼に悪気など無いのはわかるが、この流れは良く無い未来を簡単に想像させる。だからと言って訝しげにしているシリウスを放置するわけにもいかず、引きつる頬を釣り上げる努力をしながら精一杯他人行儀に声をかける。
「な、なに? ブラックくん?」
「あー…」
突然、不機嫌そうな表情が垣間見えた。
そうだよね、さっきまでは名前で呼んでいたもの。しかし、ここは分かって欲しい。少しでも私の為を思うなら、私が袋叩きになる前に距離を取ってくれませんか?
用事なら簡潔に済ませ、一刻も早く。
周りの目が痛すぎます!!
「あー……その呼び方やめないか? 他人行儀すぎる。普通にシリウスって呼べよ」
「えっ!?」
祈りは全く届いていないらしい。それどころか どストレートに返された。
固まっていた女子に加え、周りの視線までもが一気に集まる。
ああ、周りの目が痛い。
張り付いた笑顔なのが怖い。