第8章 愛馬
馬小屋の少し手前で、ピタリと信玄様と佐助君の足が止まった。
う、わ……
なんか睨んできてない!?あの、馬!?
これが、少し気の荒い馬!?
とてもじゃないけど、誰か背中に乗せるなんて……素人の私が見てもわかる程の威圧感がある。
やっぱり信玄様には一人で乗れる馬に乗って貰おうと、声を掛けようとしたら……
信玄様と佐助君は目を合わせていて、二人が大きく頷いている。そして
「この馬の名前は?」
佐助君が聞くと
「黒翔(くろがけ)です。まぁ……ご覧の通り気性の荒い馬なんですが、血統はいい馬なんですよ」
スタッフが苦笑いしながら、答えている。
「血統……?」
私がそう呟くと
「この馬の血筋は皆『黒』と名がつくんですよ。信玄公が乗っていらした『黒雲』と言う名馬の血筋でして」
「そうか……やはり……」
信玄様が黒翔に近づき、そっと、頭を撫でる。
「あ!危な……」
スタッフの声がピタリと止まった。
「初めて見ました……慣れたスタッフにも、そこまで頭を預けないんですよ……」
そう。黒翔は、信玄様に頭を預け、もっと撫でろと言わんばかりに鼻も擦りつけている。