第4章 手術
やっと迎えた手術当日の朝。
ここまで短かったような、長かったような、不思議な気分。
そして全く緊張なんて感じさせない雰囲気の信玄様。
いま、私達3人と看護師さんの4人で手術室に向かって歩いている。
私が信玄様の手をギュッと握りしめると、信玄様はそっと握り返してくれて
「きょうこ……指先が冷たくなってるなー」
「私が緊張しても仕方ないですよね」
「いや、俺の分をしてくれているんだろう?」
ニコッと余裕の微笑みの信玄様。
「う……そんな訳じゃ……」
私がしどろもどろになっていると
「大丈夫だ、俺はもっと大きな刀に斬られた事があるからね。あんな小さなキズじゃあ、死ねないな」
私の耳もとで、そんな事を言う信玄様。
……
た、たしかに……
あの戦国時代を生き抜いてきた人なんだもんね、うん!
「信玄様、ご武運を」
いつの間にか、手術室の前に着いていて、佐助君がいつも(?)の言葉を信玄様にかける。
「あぁ。少し行ってくるよ、きょうこ、佐助」
軽く手を上げる信玄様。
「はい!頑張って、立派なまな板の上の鯉になってきて下さいね!」
「ははっ!そうだな!」
笑顔で手を振る信玄様。
私と佐助君も、手を振る。
広くて逞しい信玄様の背中は、あっさりと手術室のドアをくぐり、
すぐに見えなくなった。