第12章 謀~ハカリゴト~
全てを紙に書いているようだったのに、それが実は残っていないのは、さまざまな理由がある。
それに
「全て頭の中に入っている」
信長様の言葉に、光秀さんも信玄様も頷いている。
……た、たしかに。ここで武将と呼ばれる人達の頭は、私が今まで出会ってきた人達とは比べものにならないくらい、回転も速く、キレる。
また一人、感心していると
「だから逆に操作がしやすいんだ」
ニヤリと信玄様が笑った。そして
「この本に書いてある事で、重要な物を佐助と抜き出してある。
それに沿うようにすれば、きょうこ達の住んでいた500年後を大きく変える事態は起こらないはずだ」
「だがしかし、変わってしまう物は仕方ないだろう?
俺はこの“本”の通りにはならない。なぁ、光秀?」
本には謀反を起こした光秀さんが、信長様を殺すという所謂“本能寺の変”が書いてある。
それを聞いて光秀さんは
「さぁ、それは解りません」
口角を上げて、光秀さんが信長様を見ている。
「ははっ!そうか!光秀なら有り得るかも知れん!では今から策を練るぞ」
大声を上げて笑う信長様。
「それが宜しいかと」
やっぱり澄ました顔の光秀さん。
そして苦笑いの信玄様が私に耳打ちしてきた。
「悔しいが俺だけの力では、どうにもならない」
「……」
辛酸を舐めてきた信玄様の気持ちを考えると、気楽に返事なんてできない。だけど
「お父さん、お母さんのいる世をどうしても変えたくないんだ」
「信玄様……」
「500年後は、お前達の想像を遥かに越えるほどの、発展を遂げている。何があっても変えてはならない」
信玄様が信長様にそう言うと
「貴様に言われるまでもないわ」
信長様が鼻で笑った。