第11章 戦国時代
「今夜は2人の好きな物ばかり作ったわよー」
母の楽しそうな声がダイニングに響く。
「お母さんの作って下さる物は、どれも大変旨いですよ。ねぇ、お父さん」
ニコッと父と母、2人に微笑みかける信玄様。
いつもは照れて何も言わない父も、信玄様の影響か
「あぁ、母さんの作るものはどれも旨いよ」
なんて言うから、母と私は思わず目を合わせて噴き出す。
「お父さんからそんな事を言われたの、初めてよ!ありがとう、信玄君」
母がそう言うと
「気持ちはやはり言葉や態度に出した方が伝わり易いですよ、なぁ、きょうこ」
信玄様が私の手をギュッと握って、微笑みかけてくれる。
「そうですね」
照れて顔を赤くする私を見て、母と兄が笑う。
父は嬉しそうに私達を眺めている。
そう。
この時間は
今日で終わる……
たくさん食べた。
本当は胸が苦しくて、切なくて、喉を通らない。
きっと、皆同じ気持ちだと思う。
だけど、寂しい話は一切しない。
食後はみんなで、たくさんのケーキを食べる。コーヒーや紅茶を飲みながら。
そしてとうとう……父から一言。
「明日は、昼には発つんだろう」
「はい」
信玄様の低い声。
「お父さん、お母さん、お兄さんも
私を信じて受け入れて下さり、ありがとうございました」
「堅苦しい挨拶は無しにしよう」
父が信玄様の言葉を遮った。
「そうよ、また遊びに来て。今度は……孫を抱けるかしら?」
母も笑いながら言ってくれる。
「気が早いよ。ねぇ、信玄様」
「いや、直ぐにでも」
「……っ、もう!」
皆の笑い声に溢れた。
だけど、その日の夜は
遅くまで父と信玄様の話し声が小さく聞こえていた……